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【 「ためしてガッテン!」と情報リテラシー 】 [雑学]

【 「ためしてガッテン!」と情報リテラシー 】

 

NHKの人気番組「ためしてガッテン!」で紹介した医学情報に問題があるとして、ネットの一部で炎上したそうです。 週刊誌にもこの問題に触れたものがあります。

 

睡眠薬で血糖値が下がる・・という情報を紹介したのですが、医学的根拠がはなはだ怪しく専門家から疑問を呈され、一般視聴者からも指弾されているようです。

http://www.msn.com/ja-jp/news/opinion/nhk%E3%80%8C%E3%82%AC%E3%83%83%E3%83%86%E3%83%B3%E3%80%8D%E3%81%A7%E8%B5%B7%E3%81%8D%E3%81%9F%E3%83%90%E3%83%83%E3%83%86%E3%83%B3%E3%81%AA%E5%95%8F%E9%A1%8C%E3%81%AE%E9%A1%9B%E6%9C%AB/ar-AAnZFVO?li=BBfTjut&ocid=spartandhp#page=2

しかし、考えてみればこの番組、以前から問題がたくさんありました。ただNHKの権威と視聴者からの強い支持で、番組批判は封じられてきたようです。

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一例を挙げれば、前にもこのブログで触れましたが、血液をサラサラにするという健康法の紹介です。立川志の輔は、血液をサラサラにする・・という考え方を、世に紹介したのは、この番組が最初だ・・と自慢していましたが、これはどうなのでしょうか?

番組では模型を使って、血液の粘度が下がれば体にとって具合がいい・・と説明していましたが、そんな乱暴な説明を一般の視聴者に対して行っていいのか?という疑問があります。

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人は水を飲めば体内の水分が増え、血液の粘度は低下します。逆に汗をかけば体内の水分が減り、血液の粘度は上がります。日常的に血液の粘度は変化しているとも言えます。血液が最もサラサラな状態とはつまり水ですが、それは貧血の極致です。血液には健康状態を維持するのに適した粘度があり、がむしゃらに粘度を下げればいいというものではありませんし、医師以外が勝手に判断するのは危険です。

それに粘度という物理量を議論するには、何等かの数値が目安として示される必要があります。 粘性係数であればポアズ、動粘性係数であればストークスといった単位で示されなければ客観的な情報ではありません。 そしてそれらの物理量は温度で変化します。実際問題、血液サラサラといっても簡単ではありませんし、それを感覚的に表現して理解したように錯覚させることははなはだ危険です。

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本当に血液をサラサラにする必要がある、脳梗塞などを患った患者さんには、医師が血液を固まりにくくする、然るべき薬を処方します。

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今回の、睡眠薬で血糖値を下げ糖尿病を予防するという暴論も、専門家が判断すべき部分に素人が踏み込んだ・・という点に問題がありそうです。もちろん医師の誰かが監修しているのでしょうが、医師だってたくさんいる訳で、玉石混交です。 睡眠薬で糖尿病を予防できるという医師は本物の医師(石)なのか?

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以前のブログにも紹介しましたが、合点(ガッテン)というのは、納得する意味で、その動作は、首を縦に振るものです。狂言に登場する動作では、両手を胸の前で水平に組み、首を縦に振ります。拳骨で掌を叩いてガッテンとするのは亜流であり正確ではありません。 以前、その点をNKに投書したところ、一度、その動作を前面に出さなくなりましたが、いつのまにか元に戻ってしまいました。

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NHKの人気番組の最大の問題は、長期間続くと、ネタ切れもあって質が低下することです。昔の人気番組「プロジェクトX」がその代表で、最初の頃は優れた内容だったのに、竜頭蛇尾型の典型で、最後は「やらせ」と「ねつ造」のスキャンダルで、打ち切りとなりました。

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そして権力が必ず腐敗するのと同じように、NHKの長寿番組は必ず独善化します。視聴者などからの意見を聞かなくなります。「ためしてガッテン!」は、奇をてらう内容を追及しすぎた結果、専門家の常識からの乖離が生じているのかも知れません。

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その次の問題は、この番組の位置づけです。 バラエティ番組または娯楽番組と教養番組の中間にある曖昧さが問題です。本来、まともな教養番組なら、三流の落語家に司会をさせたり、ド素人の女性アナウンサーに説明をさせたりはしません。 Eテレで、しかるべき学者や研究者に解説させ、新学説についてはエビデンスも紹介します。 それが教養番組です。それを敢えてしないのは、素人に親しみやすい構成を狙うというよりも、怪しいトンデモ学説をあたかも真実のように語るインチキ番組だからなのか? それならBSの民放に流れる、インチキ健康サプリメントCMと同じです。

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小野文恵アナウンサーは、自分が門外漢なのに、あたかも専門家のように説明しなければならない訳で、そのプレッシャーを思うと少し気の毒になります。 それくらいなら、多少話し方が下手でも専門の研究者を呼んできて解説させればいいのに・・と思います。ちょうど「ドクターG」のように。

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もっとも、オヒョウの兄のように「そういうけど、小野アナウンサーは東大出だぜ、お前より、よほど教養があるし、頭もいいに違いない。だから彼女の説明を信用すべきだ」という人もいます。 確かに彼女が優秀なのは事実でしょうが、全ての分野に精通したスーパーウーマンとも思えません。 東大出だからということで無条件に信用してしまう、そういう権威に弱い人が、無批判に「ためしてガッテン!」を信用してしまうのだろうなぁ・・・と思います。権威に弱い人は情報弱者でもあり、情報リテラシーに問題があるのだろうなぁ。

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そして、聞き手としてゲストのタレントを並べて、理解度を確認させるような番組構成も少し引っかかります。 志の輔が「お分かりいただけましたでしょうか?」と念を押すと、ゲストがハンマーを叩いてガッテンする訳ですが、どうにも押しつけがましく思えます。

なんだか自分で考えることを否定して、丸暗記を強いる受験予備校の授業のようです。

本当の理解とは生徒が自分で考え、思考を反芻して獲得できるものです。先生から「分かりましたね?」と念を押されてする理解は偽物だと私は思います。

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それにしても立川志の輔・・・、今は落語家というよりバラエティ番組の司会者です。落語家を廃業してタレントに転向した人物の先駆けは桂小金治です。小金治は視聴者である庶民の側に立って、ワイドショーで怒りそして泣き、人気をはくしましたが、落語家としては、そこで終わってしまいました。志の輔は小金治ほどの覚悟はないのか、落語家も続けていますが、師匠の談志には遠く及ばないレベルです。

中途半端な落語に加え、彼は、最近は文化人を気取り、果ては富山県出身者の代表のような顔をしていますが、それはあんまりです。私は同世代の富山県人の中にもっと富山を代表しうる人をたくさん知っています。

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そもそも、落語家が和服を脱いで洋服に着替えてTVカメラの前に立つ場合、その立場はアマチュアです。その立場を理解せずに番組を仕切り、怪しげな学説を視聴者に教える・・・というのでは、泉下の談志師匠も呆れるでしょう。 志の輔は、今からでも遅くないから落語家一筋に回帰した方がよいのではないか?

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談志がどう言うかは分かりませんが、私ならこう言います。

「志の輔師匠、この番組の問題点を認め、ガッテンしていただけましたでしょうか?」


【 地下にあるもの 】 [政治]

【 地下にあるもの 】

 

大阪の学校法人に国有地を払い下げたものの、その土地にゴミが多く埋まっていたことから、そのべらぼうな撤去費用を国が負担する事になり、不適切な国有地売却として大きなスキャンダルに発展しています。実際、埋設ゴミの撤去に8億円もかかるとは信じられません。森友学園なるものが怪しげな存在であることは論を待たず、不当な安値での国有地売却は追及すべき問題です。しかし、私は全く別のことを考えます。

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元は沼地だった土地の地中から膨大なゴミが出てくる様子を見ていると、大阪市民はその沼をゴミ捨て場にしていたのだな・・と分かります。 大阪人はあの有様を見て恥ずかしいと感じないのだろうか・・・。 公共の場を汚し、汚物を無責任に放擲するのは、本来の美意識からは遠い行動です。

それにしても、同じゴミ捨て場でも、有史以前のゴミ捨て場は貝塚として珍重され研究対象となるのに、現代のゴミ捨て場はひたすら醜いばかりです。

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同じように、地下汚染が問題となるのは、東京豊洲の市場移転先です。 小池都知事は、土壌汚染を発見して、鬼の首を取ったがごとく、得意満面で昔の知事の非を追及していますが、疑問も多くあります。 冷凍マグロを地面に直接置く訳ではあるまいし、地面から多少のベンゼンが検出されても、食品には影響ないのではないか?と素朴に思います。 それに豊洲がだめで現在の築地がいいのか?と言えば、それも怪しいところです。 築地は環境調査を徹底する前に建設した設備ですから、地中に何があるか、わかったものではありません。

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そしてこの問題を追及する朝日新聞こそ、築地の本社の地下を汚している可能性があります。 インクの有機物質も問題ですし、何といっても新聞社といえば鉛汚染です。 もっとも今の時代、新聞印刷と鉛にどういう関係があるか知らない方も多いでしょうが・・・。

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豊洲がいいのか築地の方がいいのか、それとも両方だめなのか、よくわかりませんが、時間だけは経過します。大騒ぎで移転が遅れる分、関係者の負担は膨らみ、都民の負担も増大します。小池氏はその点にはひたすら無頓着です。

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豊洲の東京ガスの工場跡地だけでなく、残念ながら、日本の場合、工場の跡地にはなにがしかの汚染物質があると考えた方がよさそうです。 化学工場でなくても、機械の洗浄には、トリクロロエタンやトリクロロエチレンを使います。そして六価クロムやPCB、石綿のような極端な有害物質でなくても、化学物質であれば今は問題視されます。

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私の知る、ある鋼管製造会社も市川の工場跡地を道路公団に売却した後、汚染物質が発見され、裁判に訴えられ、莫大な賠償金を払わされました。高速道路の下の土地に多少の有機溶剤が染みていても問題なかろうに・・という理屈は通りません。

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工場だけではありません。ドライクリーニングの店からはテトラクロロエチレンが発生しますし、ゴルフ場の除草剤も地下水を汚染します。 困ったことに、人が社会生活を営めば、土壌汚染と地下水汚染は自動的に発生し、しかも汚染源の特定が難しいのです。 その昔、有吉佐和子が指摘した「複合汚染」は、今も文字通り、地下で進行しています。 工場や工場跡地での汚染に対しては、マスコミも厳しく糾弾しますが、市井の人々の暮らしに関連した汚染や自分たちに都合の悪い汚染は無視します。

前述のクリーニング店のテトラクロロエチレンや新聞社の鉛公害がその例ですし、マスコミは自分たちが遊ぶゴルフ場についても、あまり追及しません。

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私の鹿島の家は20年以上井戸水を使っていましたが、化学物質が検出されて飲用不適となり、仕方なく水道水に切り替えました。 近隣のゴルフ場が関係している可能性がありますが、断定もできません。

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地下が汚いのは、工業化が進み、近代化した日本だけの事情であり、外国はそうではない・・・とナイーブに考える人もいるようですが、そうではありません。 中国の土壌・地下水の汚染は、日本人の想像をはるかに超えています。

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ではアフリカやアジアの途上国はどうか? 途上国は汚染されていない・・と考えたかどうか分かりませんが、昔日本の民放が募金して途上国に井戸を掘って、飲料水や生活用水を確保してあげるという奇妙なキャンペーンを行いました。よかれと思って行った善意の行動でしたが、落とし穴がありました。 

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実はユーラシア大陸とアフリカ大陸には、地下の浅い位置にヒ素が集積・濃縮した地層が広範囲に存在します。 浅い井戸を掘って、飲料水や生活用水、灌漑用水を提供した場合、途上国の多くの人がヒ素中毒になる可能性があるのです。「アフリカに井戸を!」という思い付きで始めたキャンペーンは、健康上の大問題を指摘され、ヒ素かに、いや、密かに幕を閉じました。

実は豊洲のベンゼンよりも、アジア・アフリカのヒ素の方が、遥かに大きな問題です。

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本当は、むやみに地下のものを暴くべきではないのかも知れません。日本だけでなく、世界中に、見たくないもの、見せたくないものを地中に埋める考え方があります。中国では衝突した新幹線車両の残骸を地中に埋めようとしましたし、日本では大地震などの天災の後の瓦礫を埋めます。 今、恋人たちが語らう横浜港の山下公園は、関東大震災の瓦礫を埋めたその上に造られています。 東日本大震災も満6年が経過し、悲惨な風景は姿を消し、瓦礫は地中に埋まっているはずです。

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悲惨なものを地中に覆い隠し、その上に地上の平和な風景を演出すべきだ・・という意見がありますが、一方で地中の埋設物に神秘さを感じることもあります。

中国の蒲松齢が編纂した「聊斎志異」には多くの奇談・怪談が登場しますが、その中に

「西域の砂漠には実は龍が埋めてある。誰でも行って勝手に掘り出して好きなだけその肉を食らっていいが、決して口外してはならぬ。そのことを話せば、命を失う」と男が語る逸話があります。

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口外すれば死ぬというのに、どうしてその男はそれを知っているのか?あるいはどうしてそれを語るのか?という論理矛盾はともかく、この話を読んだ時、これは面白いと私は思いました。

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それというのは、中国では恐竜の化石発掘のブームが起き、ゴビ砂漠はチラノザウルスなどの白亜紀恐竜化石のメッカになっていたからです。

聊斎志異に登場する龍が恐竜と同じかは不明ですが、想像の動物である龍が、恐竜の化石からイメージされてできたとする説に、ひとつの手がかりを与えます。 中国の人は大昔からゴビ砂漠に恐竜の化石があることを知っていたのでしょうか?

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地中に埋めたものの神秘さという点では、「満開の桜の下には死体が埋めてある」というゾッとする表現で桜の美しさを讃えた梶井基次郎でしょう。 

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荒唐無稽な表現ですが、オヒョウの知己で、梶井のこのユニークな表現を否定的に言う人はいません。皆が認めています。無論、本当に死体が埋まっていると考える人はいませんが・・・・。

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まもなく、桜前線は本州で北上を開始し、来月には大震災のあった東北にも到達します。津波の被災地にも桜が咲くでしょう。震災後6年では、新しく植えられた桜は大木にはなっていませんが、ささやかな花でも桜が咲けば、ありがたいものです。

しかし桜が咲いても、その地下に死体が眠っているなどとは、絶対に考えたくありません。 津波の被災者で、いまだ行方不明の方は2000人を超えるのですが・・・。


【 シトラス・アイランド その2 】 [広島]

【 シトラス・アイランド その2 】

 

前述の通り、近年の果物の品種改良は、めざましい早さですが、柑橘類の場合、基本的に、より甘く、より大粒にすることを競っているようです。その方が客に好まれ、より多く売れるからです。

夏ミカンなどは、少しでも甘い品種が登場すると、以前のすっぱい果実は見向きもされなくなります。ミカン山では商品価値の無くなった、夏ミカンが、フットボールとして遊ばれ、野生のイノシシの餌になっているそうです。

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一部はブリなどの養殖魚の餌になります。夏ミカンを食べたブリは商品価値が高まるのだとか!果物を食べて育つ魚がいるのか・・・。その内、マスクメロンを食べて育ったハマチなんてものが、登場するかも知れません。

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果物が甘いのは悪いことではありませんが、ひたすら甘さを競うのが、本当にいいことなのでしょうか? 昔のリンゴにはさわやかな酸味があって、リンゴならではの風合いがありましたが、最近のリンゴは酸味よりも甘味です。ひたすら甘いばかりでちょっと詰まりません。

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ただ甘いと言っても、証拠が無いじゃないか・・ということで最近は糖度計なるものを用いて、甘さを定量化して表示しています。私が行くスーパーでは、多くの果物で糖度が数値で表示されています。学力テストじゃあるまいし、なんでもかんでも数字で示すというのは、ちょっと抵抗があります。

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世の中はビッグデータ解析の時代だそうで、全ての現象、特質を数値化して解析し、マクロ的な現象を解明しようという試みが流行っています。しかし、全てを数値化できるのか、そして数値化することの是非はどうなのか? と考えてしまいます。 糖度を競い合い、その内に××農園のミカンは偏差値70、東大でも合格OKの甘さ!なんて宣伝文句が登場するかも知れません。 そんなのは、私は嫌です。

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柑橘類の特徴は甘さだけではありません。品種によって違いますが、さわやかな香り、思わず唾が出そうな酸味も特徴です。

 

街をゆき 子供の傍を通る時、蜜柑の香せり 冬がまた来る

 

というのは木下利玄の歌ですが、これはリンゴなどの他の果物では成立しない歌です。

おそらく、今よりもずっと酸っぱく、小粒で薫り高いミカンを食べていた頃の歌です。

「柑橘類はやはり香りが大事だ」と思った私は、「はるみ」と「ポンカン」を買い求めました。

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あいにく朝市の時間ではなく、名物の「みかん大福」も売っていません。

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通りすがりの人に訊くと、大芝島以外では、西條の町か因島に行かないとないだろう・・とのことで諦めました。 もともとハッサクなどを大福餅に入れて、売り出したのは因島らしく、大芝島はそのパクリだそうです。 しかし、もとをただせば因島の大福餅もイチゴ大福にヒントを得たものです。 だから、みかん大福をオリジナルと言い張るのも難しいところです。

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それはともかく、みかん大福を食べられないのも少し残念です。そして、前述の晩柑祭りにどんな柑橘類が登場するかも、興味がありますが、残念ながら見ることはできません。 34日は、既に広島にはおりません。 晩柑祭りの1週間前に、広島県呉市を去ります。

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ぼんやりとみかんのことを考えながら、改めて当地でやり残したことの多さに気づきます。前にも同じ感覚になったことがあるけれど、広島での時間はあまりに短かったな・・と 思います。

 

そこで、ちょっと駄句で恥ずかしいのですが・・・

 

行く人の 晩柑の香を 語らざる


【 シトラス・アイランド その1 】 [広島]

【 シトラス・アイランド その1 】

瀬戸内海の島々は、豊かな海産物の産地であると同時に柑橘類の宝庫です。以前、ご紹介した山口県の周防大島も、さまざまな柑橘類が取れる島ですが、広島県の大芝島も柑橘類の宝庫です。

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先日、引越し会社との契約を終えて、午後に少し時間ができました。ふと考えてみると、広島県内でも行ったことのない場所がたくさんあります。そう気付いた瞬間、焦りのような感覚にとらわれ、私は車で出発しました。出かけたのは広島県内の島々でまだ行ったことのない・・・大芝島です。

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海沿いの国道を走っていると、安芸津の集落の先に大芝島が見え、そこへ行く吊り橋も見えます。前に川崎のご隠居とドライブした時、「大芝島に行こうか」とも考えたのですが、ネットで調べてみると「何にも無い島だね」と分かり、とりやめたことがあります。

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しかし、この島には実にいろいろな柑橘類の果実があります。その柑橘類を全部眺めるだけでも価値があります。もともとは、温州ミカンと夏ミカン、レモンなど、限られた種類だけだったのが、何時の間にか増えています。多くは人工的に改良された品種でしょうが、ひょっとしたら、開花時期が重なる隣接地の別の柑橘類の花粉を受粉して交雑してできた新種もあるかも知れません。

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大芝島に入ると、すぐに道端のミカンの無人販売所が目に入ります。ミカン、はるみ、シラヌイ(デコポン)、はっさく、チャンドラポメロ、イヨカン、レーコン、ポンカン、大津、と並んでいます。はっさくやイヨカンは有名ですが、レーコンや大津、チャンドラ・・なんて種類は知りませんでした。教えられなければ、柑橘類の果実だとは思わないでしょう。

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ところで、昔、中国にいた頃、上海のリニアモーターカーを前に、中国人の友人から、「現代中国は全ての分野で日本に追いつき、追い越している。日本にできて中国にできないものは無い」と言われました。 でも農産物の無人販売所だけは、中国にまねはできないだろうなぁ・・・・、と今でも思います。

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話を元に戻します。柑橘類の種類が増えたのは、市場の激しい競争があるからです。柑橘系の栽培は他の果樹栽培に比べ、手間とお金がかかります。少しでも市場価値が高く、高く売れるものを開発・販売して元を取らなくてはなりません。 長閑そうな島にも厳しい競争がある・・・といったことを考えながら、朝市の会場に着きました。

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残念ながら朝市は土曜日の午前中だけで、私が行った時間は開いていません。会場の裏はカキ小屋になっていて焼きガキを食べられますが、それも今は食べる予定はありません。朝市の会場に車を停めると、二宮金次郎の像の向こう側に、ハート形の島として人気がある小芝島が見えます。

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小芝島を説明する看板がなぜか大芝島の海岸にあります。

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「ヘエー、小芝島ではその昔、狼煙をあげていたのか・・・」と考えます。狼煙をあげるには小高い丘のある島が好都合で、その頂きで火を焚く訳です。

しかし、一方、瀬戸内の海岸で火を焚くとなると、藻塩を焼きたくなります。製塩業は瀬戸内海沿岸の伝統産業です。 実際、広島県でも、方々に藻塩を焼く製塩業があったようで、私の住まいの近所にも塩焼(しやき)という地名があります。そして、藻塩を焼くとなると、標高の低い海岸の方が好都合で、丘の頂きでの焚火は不都合です。

狼煙と藻塩焼きは、実はなかなか両立しません。

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小芝島では、官命によって狼煙をあげた訳で、その時は製塩作業の方は断念したのだろうな・・などと思いながら、目と鼻の先の小島を眺めます。百人一首の

来ぬ人を まつほの浦の 夕なぎに

    焼くや 藻塩(もしほ)の 身もこがれつつ 

の舞台は淡路島ですが、文化的には、安芸の島にも共通するかも知れません。

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ふっと後ろを見ると、「晩柑祭り 345日」とあります。

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晩柑とは何だろうか? ひょっとして新しいミカンの一種なのかな?と思いますが、そんな果物をお店で見たことがありません。

調べてみたら、晩柑は、特定の種類を指すものではなく、温州ミカンに対して遅れて実るハッサクやイヨカンなどの果物全体を指すみたいです。

へえ・・そうなのか と思うと同時に、おいしそうだな、どんな香りなのかな?と・・とチラッと思います。

以下 次号


【 ホロヴィッツ  その3 Rugby校 】 [イギリス]

【 ホロヴィッツ  その3 Rugby校 】

 

私が鹿島製鉄所にいた頃、同期に京大でラグビー選手だったY君がいました。彼は会社員になった後も、製鉄所のラグビー選手として活躍し、引退してからも副所長になる頃まで、コーチをしていました。

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ある時、彼とラグビーの話をしていて、私がラグビー選手の意味で、ラガーと言うと、Y君は「オヒョウさん、違いますよ。ラグビー選手のことはラガーメンと言うのですよ」とたしなめるように言ったのです。 「えっ?ラガーメンだって?僕はそんな言葉は知らないよ」「そりゃオヒョウさんが無知なだけですよ」 私は困惑しました。

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やがて、あるオピニオン雑誌に作家の阿部譲二が寄稿した文を読みました。彼は慶応時代にラグビー選手でしたし、少年時代に海外生活を経験していて英語もすこぶる堪能です。 彼が言うには、「奇妙な和製英語が氾濫している。 ラグビー選手のことをラガーメンなどと奇妙な呼び方をするので、驚いていたら、どうやらそれはTBSのアナウンサーが作り出した言葉のようで、ラグビーの本家本元の英国にはない言葉だ」とのことです。

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あのTBSですから捏造もするでしょうし、英語の造語もお手の物かも知れません。しかし本当のところはどうなのか? 果たして京大のラグビー選手の言葉が正しいのか?慶応(中退だけど)のラグビー選手の言葉が正しいのか?

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自分なりの回答を得たのは、私がロンドンに駐在していた時です。ラガーメンという言葉は誰からも聞かれません。やはりラガーメンというラーメンみたいな言葉は日本人の造語なのか? 困った時には英国生まれの秘書嬢に訊くのか私のやり方です。

Kate Ford嬢に尋ねると、英国人らしい皮肉を含めて答えます。

「日本の英語にはラガーメンという言葉があるかも知れないけれど、英国の英語ではラガーであり、ラガーメンとは言わない」という明解な回答です。

British English”という表現自体が奇妙でおかしく思えましたが、彼女の説明には理由があります。 

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アメリカ英語がいろいろな点でイギリス英語と異なるのはご承知の通りですが、多くの英国人は、自分達が話すイギリス英語こそが正統で、アメリカ人の英語は正統でないと考えています。 その延長上で、もし日本にも独自の英語というものが確立していたとして、それを否定はしないが、あくまで本家はイギリス英語だと、彼女は主張したいのだと理解できます。

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実際、私自身が話していて、「そうか。それが日本英語Japanese English“なのか」と妙に納得されたことがあります。 自分の話すへたくそな発音を英語と認めてもらえたことを喜ぶべきか、それとも本物の英語とは程遠いということで馬鹿にされたのか、私としては複雑な思いで返答に窮しました。 今思えば、日本人全体の英語が馬鹿にされたと、怒るべきだったのかも知れませんが・・・・。

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秘書嬢はそれ以上説明しませんでしたが、実はラガーとラガーメンの間には本質的な違いがあります。メン”men”と付く場合、例えばチェスメン(チェスの駒)には人格は認めません。自分の意思で動く選手ではなく、司令塔の命令に従って動くだけの存在です。自分の意思で判断し行動できる場合は、語尾にerが付くPlayerです。

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御存知の方も多いでしょうが、銀行家はBanker、銀行員はBank-menです。後者は単なるClerkであり、銀行を経営する立場ではありません。ロンドン時代、私は下手なゴルフをせざるを得ないことが時々ありました。 ある時、住友対抗戦なるもので、住友銀行や大阪商船三井の駐在員と一緒に回った時、私はバンカーにつかまり、脱出するのに4打を要しました。思わず、私は「だから私はバンカーが嫌いだ!」と言うと、銀行の駐在員が「僕の方を見て言わないでくださいよ。バンカーというのは頭取級の人を指すのですよ」と大笑いしたことがあります。

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ラグビーの場合、監督(コーチ)もいますが、選手は指示通りに動く駒という訳ではありません。自分の意思で行動し、それでいてちゃんとチームワークに則った行動をするのがラグビー選手です。 彼らはラガーであってラガーメンではありません。

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今、最先端のAIを研究している人達は、複数のロボットの協同作業の実現に取り組んでいます。 自律系で動くロボット達が、相互に連絡を取り合い、チームで行動すれば、能力は各段に向上します。 ラグビー選手達はそれを実現しています。

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日本にはもうひとつ誤解があります。 英国では知識階級の青年はラグビーを愛し、労働者階級の青年はサッカーを愛するという噂です。ラグビーがパブリックスクールであるRugby校で生まれたのは事実です。そして大学進学を前提としたパブリックスクールは、基本的に中産階級以上の家庭の子弟が通うのも事実です。

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しかし今は、ラグビーは学生スポーツの域を脱していて、全ての人が楽しむスポーツです。中産階級とか知識階級云々は全く当たりません。 またその逆にサッカーは労働者階級のスポーツというのも的外れです。大学教授でも会社の経営者でもサッカーの熱烈なファンはいます。

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それでも、私がロンドンにいた頃のスター選手だったベッカムの決して上品とは言えない英語を聞いて、「彼のお里が知れる・・」と言った英国人はいましたが。

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スポーツの世界では、急速なグローバル化と同時に、階級レス化が進んでいます。今、英国で上流階級だけがするスポーツは何か?と訊かれたら、うまく答えられません。多分、とてもお金のかかるスポーツであるポロぐらいではないか?と思います。

私には縁が無いので、本当のところは分かりませんが。

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むしろ、選手やチームが一部の学校に偏るのは日本の学生スポーツの方かも知れません。 以前は、なぜか高校野球は商業高校が強く、高校ラグビーは工業高校が強いという時代がありました。 

今は、スパルタンな教育を施す私立高校が、野球もラグビーもサッカーも強いようですが。

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話が脱線しましたが、元へ戻します。

長い間、英連邦諸国や南太平洋の島国の後塵を拝していた日本のラグビーも、近年急速に強くなっているようです。 残念ながら名選手平尾は世を去りましたが、五郎丸という新しいスターは、活躍の場を世界に広げています。

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日本人選手のフィジカルには、まだまだ限界があり、すぐに欧州の6カ国対抗(5カ国対抗?)に通用するレベルにはならないでしょう。その前にラグビー自体が15人制から7人制中心になるかも知れません。

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しかし、日本人選手は、自ら考え、チームとして最適の行動をする訓練を積み、体格は小柄でも強いチームに変化しつつあります。 日本風のラガーメンからラガーへの脱皮です。 東京オリンピックが楽しみです。


【 ホロヴィッツ  その2 刑事フォイルについて 】 [イギリス]

【 ホロヴィッツ  その2 刑事フォイルについて 】

退職が近づく初老の警察官、必ずしも思い通りにならない宮仕えの立場、ロンドンではない田舎の勤務、戦時下での窮乏生活、妻を早くに亡くし、息子は遠くに暮らす孤独の日々・・・。 主人公は必ずしも晴れやかな人生を歩む成功者ではありません。 年齢も近い私などは実に感情移入がしやすい設定です。

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初老の勤め人の哀歓を、上品に描いたヨーロッパ映画は他にもあります。イタリアのピエトロ・ジェルミ監督の「鉄道員」もその一つです(高倉健のではありません)。 しかし「刑事フォイル」は、あくまで英国紳士で、不平不満は面に出さず、淡々としている点が「鉄道員」とは異なります。

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警視正という役職は日本なら警察署長の上に位置し、相当の高官ですが、フォイルの場合、多くの部下を持つ訳でもなく、田舎の警察署でひたむきに問題を解決する日々です。異動を希望しても許可されず、反りの合わない上司と衝突して辞表を出したりもします。普通の日本のサラリーマンに似ています。

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彼の高い教養から推測するに、かなりのインテリで、本来はエリートなのでしょうが、暮らし向きは庶民です。 英国は中産階級がいち早く出現した国ですが、フォイル警視正は庶民と中産階級の間に位置する知識階級の人です。貧乏ではないけれど、お金持ちではない。 そして、ある矜持のもと、権力を持つ上流階級の人に対しても臆せず、毅然としています。この人物設定は、現代の多くの視聴者の共感を得るのに好都合です。

なぜなら現代は、日本も英国もそれほどお金持ちではない、しかし矜持を持った知識階級の人が多数派だからです。

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先日、この「刑事フォイル」を見ていて、びっくりしました。主人公のフォイルが、無能で無理解な上官と対立して辞表を出し、警察署を去ったのです。 その時、まさに私も辞表を書いていたのです(形式的なもので、一身上の都合により・・というものですが)。

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フォイルの辞表は実に格調高く、簡潔で適切な文章です。それに比べて私の辞表のなんと無内容なことか・・。 恥じ入るばかりです。 歴史上、最も有名かつ格調高い辞表は、陶淵明の「帰去来の辞」でしょうが、私の辞表はその対極で、くだらない文章の極致です。 フォイルの辞表はその中間辺りでしょうか?

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一方で、フォイルに対して、なぜ「あんたが無能だから部下をやってられない」と本音を語らないのか?というじれったさも感じます。

そう言えば、その昔、「ベンチがアホやから野球をやってられない」といってプロ野球選手を辞めたピッチャーがいました。

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そのピッチャーが「ベンチがアホやから・・」と言った時に、ある種の爽快感を味わったサラリーマンは多いはずです。 なぜ、辞表を出す勤め人は格好よく見えるのか?そして潔く職を辞する態度になぜ人は憧れるのか? 私には何となく理解できます。 でもうまく表現できません。 では作者のホロヴィッツはどう考えていたのか? 彼自身を見てみれば分かるかも知れません。

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この設定を考えた作家のアンソニー・ホロヴィッツとはどんな人物なのか・・?

彼は1955年生まれ、オヒョウにごく近い年齢です。 民間企業なら定年を迎えた直後くらいです。 「刑事フォイル」のフォイル警視正は、作者の実年齢に近いのです。だから人情の機微を精密に描写できるのかも知れません。

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ホロヴィッツの生い立ちをWikipediaで調べてみれば、さらに詳しいことが分かります。

彼はLondon Paddington比較的に裕福なユダヤ人の家庭に生まれ、少年時代は太っていたとのこと。子供の頃のコンプレックスは人格描写に陰影を付けるのに適しています。

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そして彼は、パブリックスクールRugby校に通い、大学York大学を卒業しているとのことです。それほど優等生ではなかったらしい・・・。

London Euston駅から、West Coast Main Lineを西に向かう特急列車Inter Cityに乗ると、最初の停車駅がRugbyです。エリス少年が思わずサッカーボールを抱えて走り出してしまい、ラグビーという新しい球技ができてしまった、あの名門校ラグビー校はその町にあります。 しかし、ラグビー校はイートン校やハロー校ほどの超エリート学校ではありません。 そしてその後、進学した進学したヨーク大学も名門ではありますが、オックスフォード大学やケンブリッジ大学ほどの一流大学ではありません。

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もともと大学が少ない英国では、今でも大卒はそれなりの教養人として扱われますが、オックスフォード大学とケンブリッジ大学以外は、赤レンガ大学(日本で言うところの駅弁大学)と言われて差別されるのも事実です。 ホロヴィッツはインテリだけれど、本当のエリートではない、少し屈折した教養人なのかも知れません。そしてそれをフォイル警視正に投影しています。

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ドラマに登場するフォイル警視正は、時々、息子のことを語ります。「オックスフォードにいたが、応召して今は空軍にいる・・・」とサラリと語るのですが、そこに息子自慢がちょっと現れます。「爆撃機に搭乗しているのか?」と訊かれて、「いやスピットファイアだ」と答えるあたりも、エリートの戦闘機パイロットであることを自慢したがっています。インテリは、自慢する時に限って、そっけなくそして何気なく語るのです。そしてその短い会話に、微妙に彼のコンプレックスと自慢が現れます。

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それにしても、彼は何と格好いいのか。 決して笑顔を見せず、笑う時も少し頬を緩め、唇の端を上げるだけです。頭髪はかなり少なく、ハンサムとは言えない風貌です。立ち回りもせず、走る事もせず、見得をきる訳でもありません。車の運転すら滅多にしません。でも落ち着いたしぐさと思慮深い話し方と鋭い洞察力だけで、十分に格好いいのです。 かつての英国に多かった典型的な紳士の挙措です。 アメリカにはあまりいないタイプです。多分、ホロヴィッツもそのような男性に憧れ、そのような男を主人公にした作品を書いたのでしょう。 そして同世代の視聴者である私も、同じ感覚で、このドラマを眺めるのです。 だから、このドラマは私には理解しやすく、感情移入も容易なのです。

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アンソニー・ホロヴィッツは、このまま作品を出し続けるなら21世紀のグレアム・グリーンになれるかも知れません。でも彼がそう呼ばれるのを好むかは不明ですが。

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「それにしても・・」ともう一度考えます。 退職願を出し、職を辞する男はどうして格好良く見えるのか? 実際には、しばしば惨めであったり、ある種の屈託をもたらすものであるのに。


【 ホロヴィッツ  その1】 [イギリス]

【 ホロヴィッツ  その1】

私達の年代では、ホロヴィッツと聞くと、名ピアニストを思い浮かべます。 でも私のイメージでは、かなり衰えたお爺さんのピアニストです。彼の来日公演をTVで見た時には、がっかりしました。稀代の名演奏家と聞いていたのに、音は外すし、鍵盤を叩く指に勢いは無いし、さっぱりでした。

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TV放映の翌日、誰かにその話をしました。「麒麟も老いては駑馬に劣る」というけれど、ちょっとがっかりしたと言ったら、彼も同感だったらしく、複雑な表情をして「それでも、何と言ってもウラディミール・ホロヴィッツだからなぁ」ということで、私達の間では、暫く、「腐っても鯛」の代わりに、「老いさらばえてもホロヴィッツ」というひどい例えが使われました。 若かった頃は、随分失礼な表現で他人を貶したものです。

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しかし、それは昭和の時代の話です。今、ホロヴィッツといえば、私にとっては、アンソニー・ホロヴィッツです。今NHKで放映している「刑事フォイル」は彼の作品です。

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先日、「名探偵ポアロ」の「ヒッコリー・ロードの殺人」を見た時、「あれっ?どこかで見た雰囲気だぞ・・」という一種の既視感に捕われました。 そして脚本のクレジットを見て納得がいきました。この作品の原作は勿論アガサ・クリスティですが、脚本はアンソニー・ホロヴィッツだったのです。 「名探偵ポアロ」の一連のシリーズは、何人かの脚本家が、書いており、ホロヴィッツはその内の11作品を担当したとのことです。

具体的には、下記の11作品で、詳細は、下記のURLをご参照願います。

The Million Dollar Bond Robbery

The Double Clue

The Mystery of the Spanish Chest

The Theft of the Royal Ruby

Yellow Iris

Dead Man's Mirror

Jewel Robbery at the Grand Metropolitan

Hickory Dickory Dock

Murder on the Links

Lord Edgware Dies

Evil Under the Sun

http://www.anthonyhorowitz.com/television/series/poirot

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私が既視感を覚えたのは、作品の雰囲気が「刑事フォイル」のそれに近かったからです。 時代背景としては、「刑事フォイル」は第二次大戦中、「ポアロ」は2つの大戦に挟まった、つかの間の平穏な時代(それでもヨーロッパ大陸の方はきな臭くなり、英国に暮らす人々は不安を感じていた時代)です。 だから時代背景としては微妙に違うのですが、微妙な共通点があります。 それはアールデコ調の調度やファッションではなく、登場人物の性格や物腰、話し方です。

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同じ原作者でも演出家や脚本家によって、ドラマの雰囲気は変わります。「名探偵ポアロ」の各作品で、演出家による違いを示せ・・と言われても困るのですが、アンソニー・ホロヴィッツの作品だけ、私にはピンと来たのです。

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しかし本当のところ、「名探偵ポアロ」は、私には理解てきない部分があり、少し苦手なドラマです。 グラナダTVが制作したジェレミー・ブレット主演の「シャーロックホームズ」の方が、よくわかります。

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「名探偵ポアロ」について言えば、私は、アガサ・クリスティの原作を既に読んでいて、どうしても映像を自分のイメージと対比させてしまい、ズレを感じます。それに、デビッド・スーシェの卵型の頭と特徴的な髭、それに熊倉一雄の吹き替えのセリフのキャラクターが濃すぎて、少し抵抗を感じるのです。熊倉一雄は私の大好きな声優ですし、彼以上にデビッド・スーシェの吹き替えを上手にできる人はいないでしょう。

でもそれゆえに、イメージが強すぎて固定化されてしまいます。ちょうど寅さんといえば、渥美清しかイメージできないように。

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さらに言えば、エルキュール・ポアロの第一の特徴がベルギー人であることです。いつもフランス人と錯覚されることに憤慨し、そして少しだけなまった英語発音します(フラミッシュ語ではなくフランス語の影響を受けた訛りです)。

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これはこの推理小説にとって重要な点ですが、かなり微妙な特徴です。英国に暮らす外国人が話す英語に外国訛りがあるのは当然ですが、正統なBritish English (変な言い方ですが)でないために、奇異な目で見られることがあります。

当たり前ですが、英国には、英国人でなくても英語を母国語とする人がたくさんいます。アメリカ人、オーストラリア人、カナダ人、南ア共和国人、インド人、シンガポール人、ニュージーランド人、ケニア人・・・。 しかし彼らの英語にはそれぞれに特徴があり、全て微妙に訛ります。 

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それにより、僅かながら区別というか差別があります。母国によって微妙に区別されるのです。英語を母国語としない外国人(フランス人、ドイツ人、日本人等)の場合はなおさらです。 その英語は訛りが強く、その発音で相手がフランス人かドイツ人かが分かるくらいです。当然、それらは、差別の対象になりえ、特に英語の下手な外国人は軽蔑の対象になりえます。 しかし、フランス訛りの英語は軽蔑の対象とならないようです。英国ではフランス人とフランスの文化は一目置かれます。

かつての英国ではフランス語とラテン語は教養の象徴であり、気取って話す時は、フランス語やラテン語を混ぜたりします。だからフランス語訛りでも軽蔑されないのです。しかし、それがベルギー人となると、少し微妙です。英国人は大国ではないベルギーの人を少し軽く見ています。

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その微妙なコンプレックスは、ベルギー人を主人公にしたアガサ・クリスティの小説の深みを増すことに役立っています。 エルキュール・ポワロを演じるデビッド・スーシェの微かにベルギー訛り(フランス語訛り)の英語の発音は効果的です。

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しかし、熊倉一雄の日本語のセリフにそれを求めても無理です。だから、私にはアガサ・クリスティが描こうとした「名探偵ポワロ」を完全に理解することは無理なのです。

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では、同じくホロヴィッツが脚本を書いた「刑事フォイル」の方はどうか・・と言えば、こちらは、ずっと理解しやすいのです。 そしてこれはアガサ・クリスティのような原作者を持たず、ホロヴィッツ自身が書いた作品だから理解しやすく、しっくり来るのだと思います。 この辺りのことは次報で申し上げます。


【 米国の鉄鋼業 その2 パイプをどうする? 】 [鉄鋼]

【 米国の鉄鋼業 その2 パイプをどうする? 】

 

前回の繰り返しになりますが、米国の石炭産業の復活を掲げ、自動車産業の国内回帰を唱え、鉄鋼の専門家を閣僚に入れるトランプ大統領は、米国の基礎産業の復活に、まじめに取り組むかも知れません。

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ニューヨーク出身の彼が、米国北部の伝統的産業である、鉄鋼、石炭、自動車、機械などの産業にこだわるのは、ある意味で当然かも知れません。

同じ共和党でもブッシュ政権時代は、南部のテキサス州が地盤で、石炭ではなく石油産業を重視しました。国務長官だったラムズフェルドなど、石油関連産業の経営者を要職に据えましたし、ブッシュファミリー自身も石油産業で潤った一族です。

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同じ米国内でも、この北部と南部の違いを意識してか、トランプ大統領は鉄鋼産業に肩入れします。鉄鋼業界もトランプ氏のこの姿勢を歓迎します。

しかし、彼自身は、米国の鉄鋼産業にあまり詳しくないのかも知れません。

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先日も、Keystone XLと呼ばれる、米国とカナダを結ぶパイプラインの建設を提案しましたが、そこで用いられる鋼管は、当然米国製であるべきだ・・というスピーチが登場しました。

この大統領の声明は124日に出され、126日のAmerican Metal Market紙の1面に掲載されました。

それによると、溶鋼段階から、厚板、製管、コーティング段階までを米国で行う “by American Policy”を貫く・・というのです。 しかし、それは可能なのか?

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American Metal Market紙によればAIISアメリカ国際鉄鋼協会)は、早速検討に入ったといいますが、関係者は首を傾げており、「トランプ大統領は鉄鋼のことをあまり知らないのではないか?」という声もあるそうです。

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私の記憶が正しければ、エネルギーのパイプラインに適した高品質のUO鋼管を製造する工場は米国にはありません。フロリダのPanama Steelは厚板から鋼管を製造しますが、UOではありません。今からUOミルを建設するとなると・・・、トランプ氏の任期中には間に合いません。 材料となる厚板も、その元の鋼材を製造する製鋼工場もありません。

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北米で最も高性能なUO鋼管を製造できるのは、メキシコの太平洋岸のラサロ・カルディナス近くにある鋼管工場です。これは旧住友金属と現地資本の合弁で作られ、日本の住金で製造されるのと同レベルの大径鋼管を製造できます。

しかし、住金が手を引いたあとは、確か開店休業状態だったはずです。

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もともと、Keystone XLというパイプラインの建設は、オバマ前大統領が却下したプロジェクトだったのですが、トランプ氏が、一つの意趣返しとして復活させたものです。

もし、トランプ大統領が高性能・高品質のパイプラインを建設したいなら、ここはメキシコ大統領に頭を下げて、この工場を稼動させて、パイプを米国に運ぶしかありません。

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南部出身で、石油や鋼管の業界に詳しいブッシュ大統領なら、こんな間抜けなことにはならなかったのですが、トランプ大統領では仕方ありません。

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メキシコとの国境に壁を作り、その費用をメキシコに負担させる・・という暴言により、両大統領の関係は決定的に冷え込んでいますが、このパイプのプロジェクトを利用して両者の関係を回復することもできます。

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閑古鳥の鳴いている大径管工場を稼動できるならメキシコにとってもありがたい話ですが、それを機会にNAFTAの有用性を改めて確認することもできます。

パイプを用いた両国間のパイプ作りが可能になるのです。

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しかし、そこに問題点が一つあります。メキシコにあるのはUOの製管工場だけで、材料となる高品質の厚鋼板は外国から持ってくるしかありません。具体的には、日本から太平洋を横断して持ってくることになります。

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そうなると、NAFTAだけでなくTPPの有用性をトランプ大統領に認めさせることになり、日本政府としては面目躍如・・となるのですが、そう簡単ではありません。 日本では大分製鉄所の厚板工場の火災事故のために、当分、日本全体の厚板生産の能力が不足するのです。 

American Metal Market紙には、そこまで書いてありませんが、実に大分の厚板工場火災は、日本の経済外交にとって、全くの大痛なのです。

 

(我ながら、オチのひどさに自己嫌悪になりますが)。


【 米国の鉄鋼業 その1 昔の名前で出ています 】 [鉄鋼]

【 米国の鉄鋼業 その1 昔の名前で出ています 】

政治家としては未知数のトランプ大統領ですが、彼がどういう政策を行うかは、閣僚にどういう人物を選ぶか・・で占うことができます。いささか旧聞になりますが、ご存知の通り、外交については対中強硬派の人物や保護貿易主義の人物が起用されています。米国では伝統的に保護貿易主義者と自由貿易主義者が交互に登場するのです。

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そして、アメリカ政府の閣僚に私が名前を知る人物がなることなど、普通は無いのですが、今回は複数います。どちらも鉄鋼の関係者で、今の時代に重厚長大産業の関係者が就くというのは異例です。トランプ氏が鉄鋼や石炭など重厚長大産業を重視する現われかも知れません。既に多くの報道がなされていますが、一番的確なのは日経新聞の西條氏の記事です。

http://www.nikkei.com/article/DGXMZO12003590T20C17A1000000/?df=2

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一人は、NUCORの経営者として有名なダニエル・デミッコ氏です。彼に会った人の話では、非常にきさくな人物で、フランクな性格、誰とも気軽に話し、そして即断・即決する人物だそうです。実にアメリカ的な経営者です。全体的には沈滞ムードが漂う米国の鉄鋼業界で一人勝ちに近い実績をあげた人物を政権のアドバイザーに起用するということは、本当に米国の基礎産業にてこ入れする気かも知れません。

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もうひとりは、USTR(米通商代表部)の代表となるロバート・ライトハイザー氏です。

http://www.msn.com/ja-jp/news/world/%e3%80%90%e3%83%88%e3%83%a9%e3%83%b3%e3%83%97%e5%a4%a7%e7%b5%b1%e9%a0%98%e5%a7%8b%e5%8b%95%e3%80%91%e3%80%8c%e3%83%91%e3%82%a4%e3%83%97%e3%82%82%e7%b1%b3%e5%9b%bd%e8%a3%bd%e3%81%a0%e3%80%8d-%e3%83%88%e3%83%a9%e3%83%b3%e3%83%97%e5%a4%a7%e7%b5%b1%e9%a0%98%e3%80%81%e3%82%aa%e3%83%90%e3%83%9e%e6%b0%8f%e5%88%a4%e6%96%ad%e8%a6%86%e3%81%97%e3%81%a6%e3%83%91%e3%82%a4%e3%83%97%e3%83%a9%e3%82%a4%e3%83%b3%e3%81%ae%e5%bb%ba%e8%a8%ad%e6%8e%a8%e9%80%b2%e3%81%ae%e5%a4%a7%e7%b5%b1%e9%a0%98%e4%bb%a4/ar-AAmc9ux?ocid=LENDHP

彼は1980年代~1990年代 USTRの副代表でしたが、その時期に、日本から米国への鋼材輸出は急ブレーキがかかりました。1990年代の初めに私が米国に赴任したとき、私がした仕事の一つは、日系の自動車会社などのユーザーに、日本からの鋼材の代わりに、米国のパートナーの会社の鋼材を使ってくれ・・とPRする奇妙な仕事でした。

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自社の製品を売るのではなく、ライバル会社の製品をPRするのですから・・。

現地(米国)に組立工場を建設して現地生産に切り替えられる自動車産業は結構ですが、鉄鋼業はそうはいきません。莫大な投資と時間がかかる一貫製鉄所の現地移転は困難です。

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仕方なく鉄鋼各社は、それぞれ米国内にパートナーとなる鉄鋼会社を探し、そこに技術移転して日系企業のユーザーをサポートしたのです。

新日鉄 =Inland Steel

川崎製鉄=Armco Steel

住友金属=LTV Steel

日本鋼管=National Steel

神戸製鋼=US Steel

日新製鋼=Wheeling Pits

といった具合です。米国の大手鉄鋼メーカーで日本と組まなかったのはBethlehem Steel

ぐらいで、米海軍の軍艦用の鋼材は、一手にBethlehem Steelが製造していました。

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ライバル会社に技術ノウハウや商権を渡すというのは奇異なことですが、鉄鋼業界では時々あります。八幡製鉄と富士製鉄が合併した時には、独禁法を回避するため、レール鋼の製造技術と商権を日本鋼管に譲渡しました。今話題の新日鉄住金と日新製鋼の経営統合ではMg入りの特殊メッキ鋼板の製造技術が神戸製鋼に譲渡される見込みです。

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しかし、米国の独禁法では資本関係にない会社同士が協力して技術を共有することを禁じています。そこで、日本の鉄鋼各社は米国のパートナーの会社に資本参加し、その多くは損失となりました。

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つまり、ライトハイザー氏がかつて副代表だった時代は、日本の鉄鋼業にとっては屈辱的で苦難の時代だったのです。その結果、日本からの鋼材輸出は激減し、20年後もその状態は続いています。今、日本から輸出されているのは、米国製鋼材では対応できない高級鋼が殆どです。

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そう考えると「昔の名前で出ています」とばかりに、ライトハイザー氏が再登場しても、日本相手に強硬な政策は実行できませんし、実施しても意味がありません。

スーパー301条をしかけたり、ダンピング訴訟を濫発するとしたら、中国や韓国が相手となる可能性が高いと思われます。しかし中国製鋼材は駄物が多く、米国の鉄鋼産業とすぐにバッティングする可能性は低いのです。むしろ安価な鋼材を入手できない米国の機械産業が困ります。

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そうなると、影響を受けるのは韓国です。韓国の鉄鋼産業については、現時点で内需が弱く、輸出に依存する比率が高いのですが、中国の景気減速、米国の輸入規制となれば、製品を持っていく先がありません。

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今現在は、大幅な黒字を出し、生産もタイトで繁忙感のあるPOSCOですが、ライトハイザー氏を相手にして大丈夫なのだろうか?韓国の鉄鋼業界は楽天的すぎるのではないか?・・と余計なことを考えてしまいます。

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しかし、トランプ大統領のこの政策は妥当なのか? 疑問です。

その辺りについて、次報で考えてみます。

以下 次報


【 人生はトライアウト 】 [広島]

【 人生はトライアウト 】

 

2月に入って、晴れた日の暖かい陽光の中、私が工場の製品ヤードを歩いていると、人生の先輩とも言うべきNさんに会いました。 Nさんは、定年をだいぶ前に過ぎていますが、再雇用の形で、まだ現場で働いています。すでに年金もフルに出る年齢で、引退して悠悠自適の日々を送ってもいい状況です。 しかし、彼は会社に残り、現場の作業をモクモクと続けます。

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実は彼のご子息は地元の球団で活躍する内野手で、かなり有名な選手です。しかし、ここ2,3年は一軍で活躍する機会は少なく、二軍で各地を転戦する日々が続いています。そしてNさんは、地方で試合をするご子息の“おっかけ”をしていて、各地の野球場を訪問しています。

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「会社を辞めて年金生活になってもいいのだけれど、倅(せがれ)の試合を見るために、各地を旅行するお小遣いが欲しいのですよ。だから会社に残してください」

彼は会社の人事担当にそう言って、雇用契約を更改してきたのです。

しかし私は、彼が工場で仕事を続けるのは、お金のためだけとは思いません。厳しいプロスポーツの世界で歯を食いしばって頑張っている息子のことを考え、息子が現役でいる限りは、自分も現役で働き続けたい・・・そんな思いがあるはずだ・・と私は思います。

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「そう言えば、「巨人の星」の星一徹だって、飛雄馬がプロの選手になってからも土方を続けていたしなぁ。(途中で中日のコーチになったこともあったけれど)」と昭和の時代の漫画を思い出します。

プロ選手の親子というのは、やっぱり一種の「父子鷹」なんだな・・と思いました。

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そのNさんが私の顔を見ると、ボソッと話しました。

「とうとう、倅が戦力外通告をされてしまいました。現役引退ですよ」。

さてこれからどうしようか・・・?という風に彼は遠くを眺めています。

その表情につられて、私も自分の事を話します。

「私もね、60才を過ぎて再雇用の身の上です。戦力外とは言いませんが、会社での活躍の機会は減りそうです。 そこで転職することにしましたよ。 なに、スカウトとかヘッドハンティングだとか、格好いい呼び方をしますが、私の感覚としては、お払い箱になったサラリーマンが、仕事にしがみつくというか、もう一度、活躍の機会を得たい思いで、必死に転職先を探した訳で、これはプロ野球で言うところのトライアウトですよ」

・・・・・・

「だから、私は3月から東京で新しい会社に勤務するのです」。

Nさんは少し驚いた表情で、「そうですか、オヒョウさんはトライアウトしたのですか」

・・・・・・

それから、私達は天気の話などを少ししました。広島県北部の積雪の話になると、彼は、昔小学生だったご子息を連れてスキーに出かけた話などを懐かしそうに話しました。 しかし、目の前の空は晴れていて、気温は2月だというのに暖かです。

・・・・・・

唐突に私は、芭蕉の俳句を思い出しました。

 

「行く春を 近江の人と 惜しみけり」

 

これは不可解です。 場所も季節も全く違います。今は初夏ではなく、冬ですし、ここは近江ではなく安芸です。 でもなんとなく、この句の気分です。

 

どうしてこの俳句を思い出したのかな? そんなことを考えていると、暫く沈黙していたNさんが、もう一度つぶやきました。

 

「そうですか、オヒョウさんはトライアウトしたのですか・・」

 

私は、あと3週間で呉の地を離れます。


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