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【 パラチオンとスミチオン 】 [雑学]

【 パラチオンとスミチオン 】

年末のニュースでマルハニチロの冷凍食品から農薬が検出されたという報道がありました。 さてはまた中国から輸入した食品に猛毒が入っていたのか?とびっくりしましたが、今回は純然たる国産品です。 でも農薬の種類が猛毒のパラチオンと聞いて再びびっくりです。

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そこで、横から長男の突っ込みが入ります。

「違うよ。お父さん。パラチオンじゃなくてマラチオンだよ。農薬は似た名前が多いけれど、マラチオンは、毒入りギョーザ事件で有名になったメタミドホスほど毒性が強くないから、致命的なことにはならないよ」 忌まわしい毒入りギョーザ事件の農薬の名前を引き合いに出して息子は説明します。

そういえば、長男の専攻は生命化学で、まさに農薬は研究対象なのだそうです。

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「うむ。そうだよな。そもそもパラチオンなぞ、今時入手できるはずがない。中国ならいざ知らず・・・」と私。

有機リン系の農薬パラチオンは、強い毒性のために、多くの先進国で使用が禁止されたはずです。 一部の研究機関などでは入手できるでしょうが、一般の人が購入することは不可能です。

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その昔、私の小学生時代、金沢から粟ヶ崎の海水浴場に向かう電車の横の水田で、パラチオンの散布をしていました。 冷房の無い田舎の電車は窓を開け放しており、車内には異臭を伴う農薬の煙が入ってきて、ひどく不快な思いをした記憶があります。散布する農夫は常に風上に位置していますが、風下を電車が通過したのです。あの農夫はパラチオンの害について無知だったのかなぁ?(その頃、パラチオンはホリドールという名前で市販され、誰でも購入できました)。

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パラチオンは単純に比較してメタミドホスの3倍程度の毒性を持ちます。これまでにこの農薬のために世界で100人以上が亡くなっており、有機リン系の農薬として最も危険な薬品と言われています。

有機リン系の毒薬・・・については、その恐ろしさが、地下鉄サリン事件や松本サリン事件で知られることになりました。中毒時の解毒薬がアトロピンであることも知られました。 皮肉なことですが、そのお蔭で有機リン系の薬品の危険性がよく知られることになり、日本国民は注意深くなったのです。

(パラチオンの使用は、松本サリン事件よりもずっと前に禁止されています)。

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今時、パラチオンなどという名前を出すと年齢がばれる・・というか、ちょっと恥ずかしい思いをしたオヒョウですが、「あれっ? ちょっと待てよ。パラチオンは禁止されたけれど、スミチオンはまだ残っているではないか?」と、別のことに気づきました。

スミチオンは、住友化学が開発した画期的な農薬で、今も使われています。

しかし、その毒性はかなり強く、日本国内での死亡事故も起きています。

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実は、名前が似ているだけでなく、パラチオンとスミチオンは構造式も似ています。

 

 270px-Fenitrothion_Structural_Formulae__V_1_svg.png300px-Parathion_Structural_Formulae_.V.1.svg.png 

 

        上段がスミチオン  下段がパラチオン

 

ベンゼン環(6員環)にくっつくメチル基が、スミチオンでは一つ多いだけで、リンを核にした構造は非常に似ています。 スミチオンはパラチオンの模倣薬品ではないのか? 

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ある有用な化学物質が発明された後、その分子構造をちょっと変化させたり、錯体を追加するだけで、全く新しい発明をしたように紹介する研究者がいますが、私はその種類の発明に複雑な思いを持ちます。それは発明と言えるのか?特許の申請に当たっては、その種のコバンザメ型の発明をされないために注意するよう指導したこともあります。もう知的財産権の仕事からは10年以上遠ざかっていますが・・・。

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スミチオンの場合、構造式をみるとパラチオンとの類似性は一目瞭然ですが、化学式を見ると、炭素数も水素数も違います(メチル基が一つ多いので当然ですが)。

パラチオン C10H14NO5PSスミチオンC9H12NO5PS物性もやや異なり、パラチオンは白色結晶、スミチオンは褐色液体です。 だから類似性に気づかないのかも知れませんが、両者は兄弟です。

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パラチオンとスミチオンの類似性は、知的財産権の問題だけではありません。最も重大な問題は、パラチオンが禁止された後も、スミチオンは使い続けられている事です。

その理由はよく分かりません。パラチオンに比べスミチオンの毒性が低い事も理由でしょうが、スミチオンを開発した会社が日本を代表する化学メーカーである住友化学で、政財界への影響力が非常に強いという事情があるのかも知れません。

(今の経団連の会長米倉氏は住友化学出身であり、住友化学は住友財閥御三家のひとつでもあります)。

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それ以上は「下種の勘繰り」になるので、憶測では語れません。もう一つの理由として、スミチオンが非常に優れた農薬なので、これに代わる薬品がなく、仕方なしに使い続けている・・という事情があるのかも知れません。 でも、いつまでも、そんな言い訳は通用しません。 2つのサリン事件、そして中国産の毒入りギョーザ事件を経て、国民は有機リン系の薬品の害を知ってしまったのです。

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スミチオンには、いろいろな派生種があり、名前を変えてそれぞれの用途別に売られています。一時、日本の松原で猛威をふるったマツクイムシの防除の為に、散布されるのは、その名もスミパインです。・・・どうでもいいけれど、東大出の秀才が集まる住友化学で、この安っぽいネーミングは何なのでしょうか?

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強力な殺虫剤であるスミパインはマツノザイセンチュウの宿主であるカミキリムシを駆除し、それによってマツクイムシの被害を無くそうという発想でしたが、反対論を唱える人も多くいました。 ある種の昆虫に致命的な影響を与えるということは、生態系全体にも影響を与え、その毒性は脊椎動物にも影響すると考える人は多くいたのです。

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野鳥観察でも有名な漫画家の岩本久則氏は作品「閑話キューソク」の中で、マツクイムシ対策として農薬を散布することに猛反対していましたが、彼の発言に影響力がある訳でもなく、農薬(スミパイン)散布は続きました。

それでもマツクイムシの被害は衰えず、茨城県鹿嶋市では広大な松林が失われ、住宅地になってしまいました。あまり効果はなかったのです。

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私は、もう有機リン系の薬品は毒ガスであろうと、殺虫剤であろうと製造と使用を禁止すべき段階に来ていると思います。科学者達はそれに代わる生物農薬の開発を加速させていますが、その成果に期待すべきです。そして有機リン系の薬品が世の中から無くなれば、我々は何時でも安心して冷凍食品を食べることができます(中国製でない限り)。


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コメント 7

夏炉冬扇

お早うございます。
パラチオン、スミチオン、子供のころに聞き覚えた農薬で。
水田の消毒に使われてました。兄が消毒の後気分悪くなって大騒ぎしましたね。
公民館で農薬自殺する人もあって。
河野魚がめっきり少なくなった時代です。

今年もよろしく。
by 夏炉冬扇 (2014-01-05 08:31) 

笑うオヒョウ

夏炉冬扇様 コメントありがとうございます。

私のかってな考えですが、農薬は事故で中毒になるより、自殺や殺人に用いられることの方がより問題だと思います。名張の毒ぶどう酒事件がいい例ですが、せっかく銃規制がされている日本で、人殺しの凶器が普通に店で売られているという状況がいいとは思えません。今のところ、使用者である農家に十分に注意してもらうしかありませんが。
またのコメントをお待ちします。
by 笑うオヒョウ (2014-01-06 02:25) 

息子一号

今さらですが。
人に対して毒性があるものは規制すべきという考えは分かりやすいものですが
はっきり言ってそんなに簡単な話ではありません。
パラチオンに代表される有機リン系農薬は、安価で、使いやすく、効果の範囲が明確に把握できるという点で優れています。枯れた技術としての確実性があります。
一方、近年登場したネオニコチノイド系農薬は、ヒトや害虫以外の生物への安全性が高く、様々な害虫への利用が可能で、旧来の農薬を置き換えるだろうとされていました。しかし、蜜蜂の蜂群崩壊症候群を引き起こすとしてEUでは使用が禁じられました。
収入が低く、知識がなく、高齢化し体力もない農家の立場になったときに、古く枯れた農薬と、効果が未知数な部分がある農薬とで、どちらを使いたくなりますかね。
もちろん、安価で、効果が確実で、絶対に余計な毒性を示さない農薬を作ればいいと思われるでしょうが、農薬は開発に非常に時間がかかります。最近では、一人の農薬研究者が市場に送り出せる農薬はせいぜい一種類かそれ以下だと言われています。研究者がサボっているわけではありません。少なくとネオニコチノイド系農薬の登場のような大きなブレイクスルーがない限り、現状は変わらないでしょう。そういった観点から、パラチオン系農薬のような枯れた農薬は、絶対に必要だと改めて表明します。使用量・一日推定摂取量・その存在意義などを考えずに、単に毒性のみの観点から「これは人に対して大変な毒だ。規制しろ。」と騒ぐのは全く意味のないことです。「次亜塩素酸はヒトに有毒だから水道水に塩素を添加するな。」と言っているのと同じではないでしょうか。

最後にひとつ。
有機リン系の農薬が「人殺しの凶器」と書かれていることに大変な怒りを感じます。そのような考え方を心のうちに持っていることに対し、失望し、軽蔑します。
初期の有機リン系農薬がヒトや多くの生物に高い毒性を持っていることは事実ですが、そもそも適正な使用法のもとではなんら問題はないのです。そして現在ではパラチオンのように哺乳類への毒性はかなり抑えられるようになっています。実際、先の農薬混入事件では亡くなった人はいませんよね。
そして「有機リン系の農薬でどれだけの人が生かされたのか」ということをよく考えるべきだと思います。
ヒトを死に至らせる道具という意味では、包丁もバールも、コンクリートブロックも、すべて簡単に手に入るではないですか。これらも全部規制するべきなのですか?まるで蒟蒻ゼリーを規制しろという癖に、餅による死亡者に目を向けない人たちと同じように見えます。
ヒトを殺すのはヒトであって、道具ではないという当たり前のことを再確認したらいかがですか。

by 息子一号 (2014-02-26 22:48) 

息子一号

訂正します。

パラチオンのように哺乳類への毒性が抑えられる

マラチオンのように~
by 息子一号 (2014-02-26 22:53) 

笑うオヒョウ

息子一号殿
コメントに深謝します。
毒物や有害なものを社会から排除すべきか否かという議論と、有機リン系物質のハザードレベルをどう評価すべきかという議論の2種類があると思います。実は17日にも、鉄鋼協会でリンの問題を議論するシンポジウムにでてきました。 詳しくは別稿で、父親の見解を示します。

乞う 次のコメント
by 笑うオヒョウ (2014-02-27 06:11) 

kix

パラチオンは年に1000人の農家を殺したが1000万人を飢餓から救った。正直パラチオンのアナログのスミチオンを規制するなら、パラチオンより毒性の強い硫酸ニコチンのアナログのネオニコチノイド系農薬も規制するべきだし、ピレスロイドの殺虫機序はDDTと同じだからこれも規制すべきでしょうね。澱粉糊とか水飴でできている殺虫剤が安全なんでしょう。
by kix (2018-05-25 21:10) 

笑うオヒョウ

Kix様 コメントありがとうございます。
完成度の高い枯れた技術である有機リン系の薬剤にケチをつけるなら、より危険かも知れないネオニコチノイドを禁止すべきではないのか?というお考えは全くごもっともだと思います。拙稿「ミツバチはどこへ行った」でも書きましたが、まさかネオニコチノイドにこんな問題があったとは知りませんでした。
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また毒物とはいえ、それで恩恵を受けた人の方が犠牲者より圧倒的に多い、科学技術の結晶をむやみに断罪するのも、短慮に過ぎる・・というご指摘も理解いたします。
別稿で私は防腐剤の功罪について言及いたしましたが、防腐剤でガンになる人より、冷凍・冷蔵設備が未整備の環境で防腐剤を使わずに食中毒で亡くなったり重篤な病になった人の方が多いと説明し、防腐剤を擁護しました。同じ理屈が農薬にも成り立つ・・と言えます。
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しかし、致死性の毒である薬品が凶であることも事実です。突飛な例えですが、米国で銃規制が議論される際、必ず登場する意見に「銃は悪くない、それを悪用する人間が悪いのだ。だから、銃を規制するのはナンセンスだ」というものがあります。実際には、犯罪前にその「悪い人間」を予防的に管理できない以上、その意見では何も解決せず、銃による悲劇は減りません。やはり銃を管理するしかないのです。
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同じように、犯罪や事故・自殺を防ぎ、環境への影響を最小限にしようとすれば、より毒性が低かったり、対象となる生物の選択性がより高い農薬を開発し、それに移行する努力を惜しんではいけないと考えます。有機リン系の薬剤は、確立した枯れた技術であり、安心とも言えますが、古い技術を肯定し、それに甘んじていていいのか?と私は考えます。
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DDTを挙げられたのは、ウィットの利いた皮肉と理解します。DDTこそ選択性が高い優れた薬品で、人体への影響はごくわずかであると報告されています。それなのに正確なデータに基づかず、ヒステリックにDDTを攻撃した魔女狩り的なマスコミ報道を私は記憶しています。オピニオンというほどのものではありませんが、「笑うオヒョウ」はそのような愚だけは避けたいと思っております。
またのコメントをお待ちします。

by 笑うオヒョウ (2018-05-26 16:12) 

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