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【 鉄鋼保護貿易と安全保障 その2 】 [鉄鋼]

【 鉄鋼保護貿易と安全保障 その2 】

 

もう20年近以上前ですが、1990年代、当時ペンシルベニア州のアレンタウンの近くにあったベスレヘムスチールの製鉄所を訪問しました。ベスレヘムスチールは2003年に経営破綻し今はありません。一部の工場はアルセロール・ミッタルの所有になっています。

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私はこの老朽化したベスレヘムスチールの工場に非常に興味がありました。当時米国に存在した大手製鉄会社は皆、日本の鉄鋼メーカーと提携して生き残りを図っていました。しかし、ベスレヘムスチールだけは、日本メーカーと組まず、単独で残っていました。それはなぜか?

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その製鉄所の製鋼部長の部屋に入ると、壁に大きな写真が掛けてあります。一目でわかるエセックス級の航空母艦の進水式の写真です。造船所は兄弟会社である、ベスレヘム造船のクインシー造船所のようです。

「この空母はタイコンデロガ(ハンコック)か、ワスプか、あるいはレキシントンか?いずれにしても太平洋戦争では日本と戦い、日本軍に沈められたりひどい目にあった艦だな」

そう思いながら、「この軍艦の鋼材はこの製鉄所で作った厚板ですか?」と尋ねると、

実に不機嫌そうな製鋼部長は、「それはあなたとは関係ないことだ」と無礼な返事です。

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結局、名刺交換もしませんでしたが、その部長にしてみれば、

1. 米国の製鉄会社が苦境に陥っているのは、日本の製鉄会社との競争のせいだ。

2. 米国の造船会社が苦境に陥っているのは、日本の造船会社のせいだ。

  (実は、ベスレヘム造船は、私が訪れる数年前に倒産していました)。

3. 我々が作った空母は、日本軍と戦い、一部は日本軍によって沈められたのだ。

と言いたかったのかも知れません。

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それで全てが分かりました。海軍の艦船用の鋼材は輸入に頼れない。米国独資の会社を残し、そこで製造したいのだ・・・と。

戦艦大和などの大鑑巨砲主義の時代と異なり、今は艦船用の鋼材は、それほど重要視されません。どんなに強力な装甲を備えても、ミサイルが命中すれば穴が開き沈没するからです。それならむしろ装甲を薄くして高速で走れる方が、助かる率が高くなります。

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今、軍事機密と呼べる特殊な高張力鋼は潜水艦用の鋼材ぐらいです。ちなみに日本の潜水艦は、きわめて強靭な高張力鋼を用いており、潜航可能深度も抜群に深いそうですが、全て秘密です。

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潜水艦を除き、艦船用の厚鋼板がありふれた材料になったとしても、やはり自国内で鋼材を作るべきだ・・という安全保障論者は米国にも日本にもいます。

チタン合金、ジュラルミン、アルミリチウム合金等、多くの軍事用途の金属材料が、一般化し、今は民間の商品として売られています。米国のメーカーは次第に競争力を失い、圧倒的に安価な製品を提供するアジアのメーカーにかないません。だから、関税をかけて自国の防衛産業の礎となる素材メーカーを守りたいのだ・・・。トランプの本音はそこでしょう。

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結局、ベスレヘムスチールは倒産し、アルセロール・ミッタルというインド人が経営する多国籍企業の傘下に入りました。すでに米国独資の高炉メーカーは殆どなく、米国単独資本の製鉄会社は軍事用途とは縁の薄い電炉のミニミルばかりです。

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米国の場合、もはや金属材料については、安全保障上の措置を講じて米国企業を存続させるには手遅れです。同盟国である、日本や欧州の企業を活用するしかありません。

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しかし、さらに大きな問題なのは、造船会社です。かつて多くの航空母艦を建造したベスレヘム造船が倒産して既に無いことは、申し上げましたが、残っている企業も厳しい状態にあります。その辺りは次号で申し上げます。


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【 鉄鋼保護貿易と安全保障 その1 】 [鉄鋼]

【 鉄鋼保護貿易と安全保障 その1 】

 

米国のトランプ大統領が、鉄鋼の輸入に25%、アルミの輸入に10%の関税をかけると息まいています。

https://www.nikkei.com/article/DGXLASGM09H18_Z00C17A6MM0000/?n_cid=SPTMG002

この発表を受けて、早速イリノイ州グラナイトシティの製鉄所は高炉と製鋼工場の再稼働を決めました。(ちなみに、グラナイトシティの製鉄所はもともとナショナルスチールの工場でしたが、今はUSスチールです)。また、この発表で、USスチールやニューコアの株価も上昇しています。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO27842840Y8A300C1000000/

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一方、朝日新聞やTV朝日の報道ステーションは、「中国を念頭に置いた措置だが、日本も鉄鋼輸出で大きな影響を受ける可能性がある・・」と危惧しています。

https://www.asahi.com/articles/ASL322GM9L32UHBI008.html

この報道は、半分は正しいのですが、半分は間違っています。

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実は、日本から米国への鉄鋼の直接輸出は、1990年代に大きく減っており、今更、25%の関税を掛けても、輸出量が激減するという訳ではないのです。1990年代の米国は、日本製鋼材をかたっぱしからダンピング提訴し、懲罰的関税を掛けて、米国市場から締め出しました。重要な顧客であった日系自動車会社の現地工場も、バイアメリカン法の趣旨に則り、ローカルコンテンツ(つまり米国製部品)の比率を増やすよう求められ、材料や部品は日本製から米国製に切り替わっていったのです。

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その結果、日本からの鉄鋼輸出は激減し、高級な油井管用シームレスパイプなど、米国では製造困難で、かつ絶対必要な特別な鋼材のみが日本から輸出されている状況です。

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無論、自動車用鋼板などで、日本の開発した高級鋼は、不可欠なのですが、それらは主に米国内に建設した合弁の冷延工場や表面処理工場で製造されています。日本の鉄鋼会社は当初、その母材を供給する「分業輸出型」を志向しましたが、近年はその母材も米国製に切り替え、日本製の母材は減っています。日本側も海外戦略の焦点をアジアと考えており、米国市場を重視していません。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO27763240W8A300C1000000/?nf=1

だから、トランプの決定が日本の鉄鋼輸出にも大きな影響を与えるかも・・というTV朝日のコメンターの言葉はかなり的外れです。

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でも間接的な影響は避けられません。米国から締め出された中国製の駄物の鋼材が、世界の鋼材市況を押し下げ、さらに、日本へ流れ込む可能性は高いのです。その場合、日本の鉄鋼産業も一定程度の影響を受けます。

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昔、S友商事の幹部の人が言っていましたが、「鉄鋼貿易はくず湯に似ている。流動性があるようで、高級鋼の一部の製品はひも付きで流動性がない。液体だけど、どろっとしているくず湯のようだ」 日本に流れ込むのは液体の部分です。

用途と顧客が決定しているひも付きの高級鋼については、トランプの保護貿易措置の影響を受けないかも知れませんが、中進国が製造する安物の鋼材は、米国で締め出された分が日本市場に入る可能性があります。

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それにしても、トランプの仕事は粗雑です。かつてのダンピング騒動の際は、対象がかなり細かく分かれていて、その扱いは、国ごとでかつ製品・品種別でした。その手続きも緻密で煩雑でした。

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ダンピングの提訴があると、商務省は相手国のメーカーに対して製造原価を示す資料を求めます。製造原価に適正な利潤を乗せた販売価格でなければ、ダンピングとみなされます。さらに相手国(日本)の国内市況も確認し、米国での価格との乖離が無いか確認します。さらに、米国内のユーザーに意見を聞き、日本製鋼材の必要性と日本製品を選ぶ妥当性を確認します。 それらの公聴会を終えた上で、ダンピングの認定と、課徴金の金額を決定します。

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日本のメーカーと商社は膨大な資料の提出を求められる訳で、みなさん消耗していました。

さらに、ライバルである米国企業にコスト構成を全てさらけだすことに、強い抵抗を感じたこともあります。しかし、商務省の公聴会では日本メーカーの言い分も、顧客の言い分も主張する権利と機会がある訳で、ある意味フェアな手続きでした。

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しかし、トランプの決定は、あまりに単純で、一方的です。 全ての国が対象で、全製品について税率は一定です。米国内のユーザーの意見も考慮しません。トランプは「他の国は、眼に見えない非関税障壁を設けている」と主張しますが、その具体的な例は示さず、それによって米国が受けた被害についても、抽象的な説明しかしません。

(もっとも、その後、一部の国を対象から外す可能性がでてきました)。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO27842910Y8A300C1000000/?nf=1

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しかし、この粗雑な決定では、諸外国は納得しないでしょうし、米国内のユーザーも納得しないでしょう。この点は朝日などのマスコミの言うとおりです。

そして、注目すべきはその次の点です。

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トランプ大統領は、国防上あるいは、安全保障上の観点から、米国の産業を守るため、今回の課税措置を行うと発言しています。日本のマスコミのコメンテーターは、「ハイテクや武器・兵器産業でもない、素材産業がどうして安全保障と関係あるのか?」と理解できない様子でした。

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一方で、国防上の理由ではなく、昔から言われている雇用の確保が目的だとする意見もあります。

https://www.nikkei.com/article/DGXLASGM21H25_R20C17A4EAF000/?n_cid=SPTMG002

どうも国防目的なのか雇用確保目的なのか、はっきりとしません。

でもこの点は、実はかなり大事なのです。それについては次号で申し上げます。


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【 執務空間 その4 製鉄所の場合 】 [鉄鋼]

【 執務空間 その4 製鉄所の場合 】

 

ノンテリトリアルオフィスで個人机を廃止し、在宅勤務で事務所を徹底的に合理化できるのは、営業部門あるいは本社機構だけです。製造現場は事情が違います.

製鉄会社に限った話ではありませんが、製造業では生産現場が一番重要です。そして製造現場では、在宅勤務はあり得ません。通勤に時間がかかろうが、残業が多かろうが、3Kだろうが、現場が命です。

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そして、いかに通信手段が発達しても、遠隔地から生産現場の管理はできません。

製鉄所の場合、同じ所内でも、製鋼部の事務所から転炉工場の現場まで1kmぐらいある・・というのは普通です。 スタッフは事務所から現場まで頻繁に往復して仕事を続けます。 製鉄所の本館から・・となると、もっと距離があります。同じ製鉄所内でも製鋼工場から本館勤務に異動すると、なんだかとても現場から遠ざかった気持ちがします。

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そこでは事務所の効率化や合理化はあまり意味を持ちません。現場の効率化の方が優先されます。そしてもう一つ、そこには管理職の人達の奇妙なこだわりがあるのです。

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世の中は、全て記号論の世界です。目に見える幾つかの「お約束」の記号を重視します。サラリーマンは昇進するとともに、さらに記号にこだわります。製鉄所に勤務する管理職はまさに記号の塊です。

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管理職(参事・課長級)になれば、腕章を付け、通勤用の自動車のステッカーにもマークが付きます。机の引き出しは両袖になり、椅子には肘掛が付きます。やがて参与・部長になると、個室が与えられ、出退勤は運転手付きの黒塗りの車になり、更に聡明で美しい女性秘書が付きます。・・・・失礼、最後の部分は不正確です。必ずしも聡明で美人とは限りません。 願望が少し入りました。 

それらは全て一種の記号であり、その人の地位を示すための手段です。業務がそれで改善されたり、効率化される訳ではありません。

(役職や待遇は、旧S友金属時代の話です。今は全てが変わったはずです)。

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そういう世界で暮らしてきた管理職には、ノンテリトリアルオフィスだの、在宅勤務はとんでもない話です。やっと手にした地位の象徴を奪われることに強い抵抗を示すはずです。「事務所の変革は、本社では成功しても製鉄所では無理な話だ・・」。

20年前、ノンテリトリアルオフィスが導入された際、私はそう思いました。

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私は、業務の効率化あるいは事務所の合理化の本質は別のところにあると思いました。それは、米国で大成功を収めていたミニミルの話を聞いていたからです。中でもミニミルの雄とされたNUCORは、本社費用を徹底的に抑え、投資の多くを製造現場に集中させる方針を取っていました。

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ミニミルとはいうものの、売上高では大手高炉メーカーを凌駕するNUCORの本社は、地方都市のスーパーマーケットの2階にある・・・と本には書いてあります。正確にはスーパーマーケットの2階という訳ではなく、ショッピングモールにある小さな建物を本社にしていたようです。

そこではノンテリトリアルオフィス以前に、必要なホワイトカラーの数は最小限に抑えられており、その代わり、各スタッフには多くの判断権限が与えられていました。そして経営者であるケン・アイバーソンは社長室に閉じこもらず、現場や事務所を飛び回り、きさくに社員に話しかけるスタイルでした。 そもそも社長室があったのか? 私は知りません。

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NUCOR20世紀後半の製鉄会社で最も輝かしい成功を収めた秘訣は、一言で言えば、経営資源をどこに集中させるかの判断で、正しい選択をしたことでしょう。

今、製鉄会社に限らず、多くのメーカーに求められているのは本社機構の簡素化です。

投資を集中すべきは生産現場と研究開発です。それしか低コストを武器に挑んでくるアジアのライバル企業に勝つ手はありません。

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それなのに、経営者が行っていることは、正反対のことばかりです(私は真逆と言う言葉が嫌いです)。

例えば、従業員が数百人しかいない電炉メーカーで、ホールディングカンパニーを新たに設けて、屋上屋を重ねたり、取締役と執行役員をあわせると重役だけでラグビーのチームができるようなトップヘビーの人事構造にしたりします。

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ホールディングカンパニーだの、スチールカンパニーだのと、やたら多くのカンパニーを抱え、それぞれに社長がいて、どれが本物の社長か分からない・・という事態は、上はJFEから、下は地方の零細電炉メーカーまで共通です。 これは異常事態です。

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やがて、それらの会社では、社長ばかりがたくさん集まって、「困ったね。社長室が狭くてかなわない。ひとつ、各社長の机と椅子を無くして、ノンテリトリアルオフィスにしようかね? ああ、ホールディングカンパニーの社長さんは、在宅勤務でもいいでしょう?」となるかも知れません。

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いえ、別に貶しているのではありませんよ。 米国のミニミルなら、社長の机にしがみついている経営者の方が軽蔑されるのですから。


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【 執務空間 その3 在宅勤務と書斎 】 [鉄鋼]

【 執務空間 その3 在宅勤務と書斎 】

 

政府は、「働き方改革」を訴え、Work Life Balanceの見直しを訴えていますが、本当に政府が真剣に取り組んでいるのか、ちょっと疑問です。「働き方改革担当」の担当大臣に誰をあてるかでそれを占えますが、加藤勝信氏ではちょっと軽いというか、力不足です。やっていることと言えば、残業時間を減らして自分の生活に使う時間を増やせ・・と言うばかりで、具体的な方策については、企業に丸投げです。

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本来なら、もっとふやせるはずの在宅勤務を奨励し、無駄な通勤時間を減らしたり、自宅での子育てを可能にしたり、お年寄りの介護に充てる時間を確保するように働きかけるべきです。

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待機児童対策(不思議な言葉です。対象は児童=小学生ではなく、園児=保育園児、幼稚園児のはずですが・・)だって、保育園の建設や保育士の増員だけでなく、親が自宅にいられる時間を確保する事も大切なはずです。

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簡単な事ではありませんが、在宅勤務が可能になれば、介護離職というつらい選択もある程度防げるかも知れません。

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朝の交通機関の通勤ラッシュも軽減できます。在宅では会社の業務に集中できないから生産性が下がったり、家事もするから正味の勤務時間が減るし、更には残業が減るので、収入が減るという意見もありましょうが、対策は可能です。企業側は、通勤手当を削減でき、事務所の維持費も削減できますから、その分を社員の給与に回すことが可能でしょう。

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在宅勤務の奨励で見えてくるのはいいことばかりです。会社の狭い机から解放されます。 一方、社会の消費構造も大きく変化するでしょう。

ビジネススーツや革靴、ネクタイは売れなくなるかも知れません。在宅勤務のTV会議で、上半身だけがカメラに写る場合、テーブルの下はパジャマでもよいのです。

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都心の飲食店のお客も減ります。 ラッシュアワーの通勤客で稼いでいる鉄道会社にも大打撃ですし、駅前商店街の売れ行きも減るかも知れません。でもお客が集中するピーク時間帯がなくなり、ゆったりとした買い物が可能になるでしょう。

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そして在宅勤務が増えれば、住宅の質と構造も変化します。

従来の戸建て住宅は、使い易いキッチンや、バスルームを売り物にしていました。夫よりも家の中で過ごす時間が長く、キッチンを仕事場とする主婦の発言力が強く、主婦の歓心を買うことが住宅メーカーにとって重要だったからです。

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これからは違います。在宅勤務で自宅を仕事場とする夫は、書斎を要求します。使い易く、居心地がよく、TVスタジオとしても使える書斎が必要となるのです。 在宅勤務でTV会議をするとなると、自分の後ろの風景も映ります。ちょっと立派な本棚に専門書や教養書を並べて、TV映りを良くする工夫も必要です。(最近はインスタ映えと言うそうですが)

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では以前の住宅の書斎はどうだったのか?住宅を設計する際、夫の書斎(というか勉強部屋)は、優先順位を一番下にされます。 実際、働き盛りの夫は、普段はあまり家にいないので立派な書斎は宝の持ち腐れだからです。

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一方、定年などのリタイヤを機に、マイホームを新しく持つ人もいます。こちらは一家の主として社会的地位もそれなりにありますし、子供部屋も必要ありませんから、書斎を要求できる立場になります。そこで、書斎を作り、立派な机と椅子を入れます。

でも今度はそこで行う仕事がありません。 のんびりと本を読むか、Facebookに投稿するぐらいしかありません。

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Oヘンリーの短編小説ではありませんが、必要な時にはなく、不必要になってから手に入る・・・というのが、男の城である書斎でした。でもこれからは書斎が本当の仕事場として意味を持ち、重視される時代が来ます。

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繰り返しになりますが、在宅勤務も捨てたものではありません。

しかし、それらは、都会の事務所に勤務する非メーカーのホワイトカラーの場合です。メーカーの場合はどうなのか? 最初に紹介した製鉄会社の場合はどうなのか?

 

それについては次号で報告いたします。


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【 執務空間 その2 ユビキタス化 】 [鉄鋼]

【 執務空間 その2 ユビキタス化 】

 

米国であれば、管理職なら個室を与えられるのが普通です。個室が与えられない一般職もL字型の広い机を与えられ、隣席とは間仕切りで区切られ、自分の空間が持て、そしてそれは十分に広いのです。欧州もおおむねそれに近い環境です。

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一方、日本では、狭い机が1つだけ、それも管理職以外は片袖(つまり引き出しが片方にしかない)机です。しかもその机の上にはパソコンが乗り、足元には書類のラックが置かれ、自分の机と言いながら、足を机の下に伸ばせない有様です。

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ノンテリトリアルオフィスが苦肉の策であるのは理解しますが、これ以上、事務所を狭くしてどうするのか?と、私は首を傾げました。

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しかし、時代は私の発想よりはるかに速く動いていました。事務所など要らないという考え方が、世の中を席捲しています。

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当時、新しい概念として注目されたのはユビキタス構想です。東大の坂村健教授などが提唱したもので、これはいつどこにいても、どんな環境でも、同じ情報が得られ、同じ業務を遂行し、同じ情報を発信できる・・という「どこでもオフィス」的発想です。その前提となるのは、インターネットと、ポータブルのデバイス(ノートパソコンやタブレット端末)、そして高速で大容量かつ安全な無線通信です。

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ノートブック(ラップトップPC)は、アラン・ケイが提唱したダイナブック構想(つまり、何時でもどこでも使えるコンピューター)を追及したものですが、単独ではダイナブック構想は実現せず、無線LANWi-FiBluetoothが必要でした。もちろんインターネットも前提です。

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日本の場合、本当にユビキタスが実現したのは、2010年頃ではないか?と思います。

そうなると、ホワイトカラーのサラリーマンは、本当に事務所が要らなくなりました。

以前から、全国を飛び回り、空港のラウンジを執務空間にして通信し、自分の会社には滅多にいない・・という経営者やビジネスマンはいましたが、少数派でした。

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しかし、今はごく普通のサラリーマンでも会社の事務所で仕事をする必要はありません。パソコンと電話(通信手段)さえあれば、どこでも可能なのです。

かつは、小規模事業者やベンチャー企業のものとされていたSOHO(Small Office, Home Office)が大企業でも採用される時代が来ます。

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外回りの営業マンは最初から会社の事務所にいる必要はありません。お客様への直行、直帰でいいのです。内勤の人達も、ユビキタスで在宅勤務が可能になります。おそらくホワイトカラーの業務の内、半分くらいは会社以外の場所でこなせるようになるでしょう。しかし、現実の日本ではそれほど勤務スタイルは変化していません。幾つかの問題があるからです。

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実は、ホワイトカラーの仕事の相当部分は、人と会ってコミュニケーションすることです。社外に出て、お客と商談することもありますし、社内の会議もあります。しかし、事務所がなくなったり狭くなれば、どこで会えばいいのか?となります。

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客先を訪問したら、相手の人もユビキタスで事務所におらず、会えないというのでも困ります。TV電話やTV会議があるじゃないか・・といっても、面と向かって話すのとは、得られる情報量に差があります。営業は、何といっても、顔を見せて、話を聞かなくては仕事にならないのです

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もうひとつ大事なことは、会社で仕事をする場合に必要な、仲間意識というか「一体感」の醸成です。男性も女性も仕事用のスーツを着て、同じ部屋で仕事をすることが大事なのです。上司は朝礼や会話を通じて部下の健康状態などを観察・把握します。そして人々は、職場の「空気」を感じながら、ある種の仲間意識を持って仕事を遂行します。

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「弱い存在は群れる」と以前のブログで申し上げましたが、日本のサラリーマンも弱い存在であり、仲間から外れることは不安であり、みんな一緒にいないとこわいのです。

だから、大雪で交通機関が麻痺するかも知れない日でも、社畜(大嫌いな言葉です)と揶揄されても皆さん出勤するのです。

https://rocketnews24.com/2018/01/22/1010202/

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なぜ、日本人のホワイトカラーの職場は個室でなくて大部屋なのか?という質問には、上記の事情が回答になります。

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でも時代は否応なしに動いています。従来の勤務形態がいいのか?従来のデスクワークが良いのか、見直しが必要です。 

ユビキタスの延長上には、在宅勤務やWork Life Balanceの変化が見通せます。

それについては、次号で報告いたします。

 


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【 執務空間 その1 】 [鉄鋼]

【 執務空間 その1 】

 

もう20年ほど前になりますが、当時の私の勤務先(今はもうない会社です)の東京本社が大手町から晴海に引っ越しました。

その際、営業部門の部屋が、ノンテリトリアルオフィスに変わりました。「何ですか?そのノンテリトリアル何とかってのは?」と訊くと、「つまり、皆さんが仕事をする場所をフリーアドレス化するのですよ。部屋の床は既にフリーアクセスフロアになっていますからね」との返事です。

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「頼みますから日本語で説明してください」

「あれぇ?オヒョウ君は英語が得意だったんじゃないですか?」とチクリと棘のある言葉です。

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ご承知の方も多いでしょうが、以下に簡単に解説します。

ノンテリトリアルオフィスというのは、働く人の個人机を無くし、長いテーブル状の机の任意の場所で仕事をするというものです。一人一人は個人用のキャスター付きキャビネット(机の袖の引き出しです)とノートパソコンを与えられ、朝出社したら、ゴロゴロとそのキャビネットと椅子を押して好きなところに持って行って仕事を始めます。従来なら机の引き出しや机上にあった書類はキャビネットの中です。

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逆に電話は、各個人に割り当てられ、当然ながらワイヤレス(当時はPHS)です。同僚への電話を取り次ぐ必要はありません。パソコンは、まだ無線LANWi-Fiが普及する前で、有線のLANでしたが、床のパネルの下をケーブルが通っていて、任意の場所でLANケーブルとAC電源ケーブルが取り出せる仕組みです(それがフリーアクセスフロア)。

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ノンテリトリアルオフィスの発想とそのメリットは、

1. 業務をする場所は、その内容と一緒に仕事をする相手に応じて、自在に変えられるべきだ。営業と技術、営業補佐等、パートナーと隣り合わせで仕事をすれば、効率が上がる。だから場所は自由の方がいい。

2. 個人が占有する空間がなくなれば、整理整頓が進む。また私物を置いたりして公私混同することもなくなる。

3. 人事異動やフォーメーション変更の際の引っ越し作業が簡単になる。

というものです。

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しかし、不思議な事に、長テーブルの形をした机の面積は人数分の半分しかありませんでした。社員が全員着席して事務仕事をしようとすると場所が足りなかったのです。その理由も幾つかあります。

1. 営業は本来お客様回りが主な業務であり、本社の事務所にいる時間は少ないはずだ。常時、スタッフの半分以上が、外出しているのなら、執務空間は半分あればいい。不在のスタッフの空いている机はもったいないから合理化する。

2. むしろ、営業はどんどん外へ行くべきで、事務所に居ることは勧められない。

というものです。

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そう言えば、聞こえはいいのですが、会社側の本当の意図を勘繰る人もいました。

・本当の目的は家賃の高い新築の本社ビルで、少しでも空間を少なくしたいのだよ。

・営業が事務所にいる時間は、稼いでいないのだから、皆が外回りに出るように、わざと事務所の居心地を悪くしているのだよ。

・ぎゅうぎゅう詰めのオフィスを体験させて、いかに人材が余っているかを納得してもらい、退職を促すというかリストラ促進効果を狙っているのさ。

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どうも、ネガティブな勘繰りばかりですが、当時、会社の業績は悪化し、せっかく新築の近代的なビルに引っ越しても、おめでたい雰囲気ではありませんし、実際、会社は大リストラを断行していました。

もっと言えば、それまで東京本社があったO手センタービルは当時最も家賃の高いオフィスビルでした。不敬なことにトイレで用を足しながら、皇居を眺め降ろす場所にあり、ライバル会社である日本鋼管(こちらもすでにありません)と同じ通りにありました。

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便利ではあるけれど、高い家賃、リストラを待つダブついたホワイトカラー達で、本社経費はなかなか減りません。爪に火を点す合理化を進めている製造現場からの怨嗟の声に対する回答が、ノンテリトリアルオフィスだったのです。

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しかし、私にはどうにも理解できませんでした。新しくなるのに、かえって居心地が悪くなるオフィスというのはありうるのだろうか?

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ここでちょっと飛躍しますが、事務所から工場に話を転じます。

産業心理学では有名な話ですが、「ホーソンプラントでの実験」という報告があります。

これは作業環境を快適にすれば、労働生産性も向上するという理論で、例えばBGMを流せば、生産性が向上したという実験結果があります。

この理論を元に、昭和の一時期、工場や事務所でBGMを流すのが流行りました。

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しかしこの報告には反論も多く、いたずらに快適にすれば、作業者がくつろぐだけで生産性は向上しない・・という意見もあります。

空調設備を完備したり、音楽を流すぐらいはいいかも知れませんが、作業場での飲食を認めたり、私物を置くというのは、確かに仕事に臨む緊張感を阻害するものです。

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しかし、生産性向上とは別の次元で、職場環境は改善されるべきだ・・という考えがあります。エアコンは当然ですし、その他も勤労者の権利として職場の改善は主張されるべきというものです。当時、IEの専門家は、これを「工場トイレの水洗化の理屈」と言いました。今ならさしずめ「洗浄便座の導入の理屈」でしょうか? 生産性の向上に寄与しない投資であっても、従業員の福利と社会の趨勢を考えれば行うべき投資だ・・というぐらいの意味です。

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日本では、景気の低迷や円高で、賃金上昇が抑えられ、逆にマイナスだった時代が続きました。賃金を上げることが無理だとしても、それに代わる職場環境の改善は勤労者の要求として自然なことだったのです。

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だから、私は事務所であれ、工場であれ、職場環境はどんどん改善されていくのが時代の流れだと理解していたのに、ノンテリトリアルオフィスは、全く逆行するように思えたのです。もともと、日本のオフィスは狭すぎます。

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私は、「日本の会社の事務所はもっとゆったりとした空間を確保すべきだ。でも本社が行っていることは、それに逆行する」と思いました。しかし、今になって考えると、私のその考えは間違っていたかも知れません。その後、時代はユビキタス化を志向し、情報を扱う業務に関しては、事務所の存在そのものが、意味を失っていったからです。

 

それについては、次号で申し上げます。


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【 太陽光と太陽熱 その1 】 [鉄鋼]

【 太陽光と太陽熱 その1 】

 

ひところの太陽光発電のブームは納まりつつありますが、自然エネルギーあるいは再生可能エネルギーの重要度は増すばかりです。昔からの水力発電に加え、低落差水力発電、風力、太陽光、太陽熱、バイオマス火力、地熱、潮汐、波浪、海流など、(アイデアだけは)実に多彩です。さらに将来は人工光合成などの手段も研究されるでしょう。

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規模が小さく不安定な再生可能エネルギーの場合、複数の発電方法を組み合わせて全体として安定した発電システムを構築することが重要です。その中で風力発電と太陽光発電、太陽熱発電は、中核的な位置づけにあると言えます。諸外国では大洋上に大型の風力発電設備を並べたり、砂漠に大型の太陽熱発電所を建設したりしています。

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日本では太陽光発電と太陽熱発電の比較が30年以上前になされ、その結果、太陽光発電を採用し、太陽熱発電は却下されたのですが、どうも私には納得できませんでした。 当時は太陽電池パネルの価格も高く、発電効率も低かったため、採算にのるとは思えなかったからです。現在の太陽光発電の普及状況は、昔の私には想像できませんでした。今、太陽光発電が普及しているのは、行政による補助金のお陰というか、高い売電価格のお陰であり、本当のコストを考えると採算にのってはいません。

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太陽熱発電が却下されたのは、当時の技術が低かったからです。愛媛県で実験したのは集光式で、円形に敷き詰めた反射鏡からタワーの中央部に光を集め、その熱で発電する方式ですが、今ならもっと進んだ技術が使えます。 一枚一枚の反射鏡に太陽の方向を追尾させるヘリオスタット(シーロスタット)の機能も付けられますし、熱媒体には、より高性能な溶融塩類を使用できます。タワー集光方式ではなく、パラボラ型の反射鏡を直列に並べたトレンチ式も実用化されています。

http://www.synchronature.com/Science/Solar.html

熱媒体をタンクに保存すれば、昼間だけでなく夜間も発電可能であり、現在の揚水発電所の機能も持たせることが可能です。

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日本は太陽熱発電をあきらめるのが早すぎたのではないか? そんな気もします。

そして私は太陽熱の利用方法として熱機関による発電以外のことも考えたりします。

太陽熱を利用して高温を得る設備を太陽炉と言いますが、他の方法では得にくい超高温を得られます。理論的には太陽表面の温度6000℃が上限となります。これは熱力学第三法則に基づくもので、熱源の温度を上回る温度は得られない・・という理屈に基づきます。

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実際には6000℃までいかないにしても、一千度以上という高温は何の役に立つのか?利用方法はあるのか?という議論になります。

私が最初に考えるのは、還元が難しいアルカリ金属やアルカリ土類金属の精錬です。これは温度が高いほど有利になります。大昔の弊ブログ【静かの海精錬所】では、月面に太陽炉を設けて、豊富にあるチタン鉱石を精錬するというアイデアを書いたものです。

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オヒョウ以外にも東工大の矢部教授らは、マグネシウムの精錬に太陽光を用いることを考えておられます。 実際には普通の太陽炉で得られる熱エネルギーでは足りず、太陽光でレーザーを励起してより高い温度(2000℃以上)を実現することでマグネシウムを還元してマグネシウムサイクルで、電力を運搬・保管することを提案されています。文献はいろいろありますが、

https://www.amazon.co.jp/%E3%83%9E%E3%82%B0%E3%83%8D%E3%82%B7%E3%82%A6%E3%83%A0%E6%96%87%E6%98%8E%E8%AB%96-PHP%E6%96%B0%E6%9B%B8-%E7%9F%A2%E9%83%A8-%E5%AD%9D/dp/4569775616

https://matome.naver.jp/odai/2135127675601222701

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実際、マグネシウムは電力の缶詰で、それを酸化させて発電するマグネシウム電池は一次電池として非常に優れた電池です。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A9%BA%E6%B0%97%E9%9B%BB%E6%B1%A0

しかし、その還元精錬が難しいのです。現在使用しているピジョン法では電力を大量に消費します。今、マグネシウムの値段が安いのは、電力の安い中国で製造しているからで、しかも作りすぎて、その市況が下がっているからです。日本国内でマグネシウムを精錬するなら高価なものになります。だからマグネシウム電池は使い捨ての一次電池になってもリサイクルは難しいのです。

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矢部教授は、安価に高温環境(2000℃以上)が確保できれば、マグネシウムは還元され、再び電池となるので、クリーンな太陽エネルギーを使って理想的な電力利用ができると提案されています。マグネシウム電池の応用については東北大学の小濱教授らが研究されています。

http://news.mynavi.jp/news/2012/02/13/055/

鍵となる太陽光レーザーは、東工大だけでなく大阪大学や北海道大学その他の大学で進んでいます。

http://www.ilt.or.jp/pdf/report/2008/houkoku6.pdf

http://www.mgciv.com/blog/economical-solar-pumped-laser.html

普通の太陽炉であれば、熱力学の法則で太陽表面温度6000℃を超えることはできないと申しましたが、レーザーになるとその制約はなくなります。レーザー加熱は、熱力学で言うところの熱機関ではないからです。 さらに言えば、レーザーは量子力学の現象が目に見える典型的な存在であり、古典論の物理学を超越しているのです。

だから、レーザーになったとたん、数千度はおろか数千万度への加熱も(理論的には)可能になり、核融合の手段にもなるのです。

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しかし、熱力学の法則を超越した存在・・というのは機械科出身のオヒョウには何となく、いぶかしく思えます。物理が専門の次男なら別の考えを持つかも知れませんが。

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太陽光レーザーでマグネシウムを還元するというこの提案は非常に魅力的なのですが、冶金学者の中には「そううまいこと行くかな?」と疑問を呈する人もいます。オヒョウが直接うかがったところでは、東工大にも東北大にも否定的な見解を示す教授がおられました。

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精錬は化学反応ですから、単純に温度を上げれば、一方向に反応が進むとは限りません。金属の酸化エネルギーレベルは、エリンガムダイアグラムに示される通り、温度に依存しますが、実際の反応では、酸素をやり取りする相手の元素とのエネルギーレベル差で酸化されるか還元されるが決まります。高温になれば、単体の酸素分子(もしくは酸素原子のプラズマ)が大量に生成する訳ではありません。

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実際、太陽光レーザーで酸化マグネシウムが還元される率は時間をかけても20%程度らしいとのこと。太陽光レーザーを用いたマグネシウムサイクルは簡単ではありません。それでも私の理解では素晴らしい成果ですし、実用に堪える水準に近付いていると思いますが・・。

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太陽光レーザーの問題はさておき、私はレーザーを用いない古典的な太陽炉でも多くのことができるのではないか?と考えます。

 

私は太陽熱利用について、まだ研究すべきことが多くあると思うのです。

 

それについては次号で・・。


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【 神戸製鋼について思うこと その6 】 [鉄鋼]

【 神戸製鋼について思うこと その6 】

 

神戸製鋼の線材条鋼部門は、JFEが欲しがるでしょう。JFEはJFE条鋼という電炉の子会社を持ちますが、新日鉄住金に比べると非力なのです。 薄板の超ハイテンの存在は新日鉄住金にとって目の上のたんこぶでしたから、新日鉄が欲しがるでしょう。

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問題は建機です。コマツ、日立、住友建機が引き取るか、あるいは中国の会社が買うかも知れません。コベルコ建機は、パワーショベルについては、広島県の沼田の他、中国の四川省成都と浙江省杭州やインドに工場がありますが、成都の工場は狭く老朽化しているうえに、沿海部と離れすぎています。同社は新しい杭州工場へのシフトを急いでいますが、ちょっとバランスが悪い状態です。 日本の建機メーカーは殆ど中国国内に工場を持っていますが、複数を持つのは最大手のコマツだけです。 長い建機不況のトンネルを抜けて、黒字になっていますが、新たな中国工場が必要な状況ではありません。 日本のパワーショベルメーカーにはコベルコの中国の工場の魅力はあまり無いはずです。そうなれば、中国の会社買うかも知れません。白物家電のサンヨーの時のように。

クローラークレーンの工場は兵庫県にありますが、これを引き取るのは日立住友クレーンしかないでしょう。あるいはDemagか、LiebHerrか・・。

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非鉄については若干事情が複雑です。本稿では詳しくは述べませんが、神戸製鋼のアルミを欲しがる会社はたくさんあるでしょう。 チタン事業は新日鉄住金と一緒になるかも知れません。

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最大のポイントはIPP(つまり石炭火力発電を用いた独立の電力卸事業)です。 これは神戸製鋼本体が手放さすに操業を続けるでしょう。 買い手の候補となる関西電力は、原発の再稼働の方に関心があり、石炭火力の発電所を買うことはないでしょう。

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かつて鉄鋼不況で苦しんだ時、神戸製鋼の社長は「鉄はさっぱりだが、発電事業は確実に儲かる。だからこれを推進する」とマスコミに語りました。

これを聞いた時、私は複雑な思いがしました。

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・IPPは完全な装置産業です。超超臨界圧の石炭火力発電所の設備さえ作れば、後は、企業努力は不要で、経営者は眠っていても安定した収入が見込めます。

毎日、七転八倒して苦しみながら製鉄所を運営している鉄鋼から見れば、そんな楽な事業で鉄鋼より儲けが多いというのはどういうことだ?と言いたくなります。

・販売先は関西電力などの電力会社ですが、卸の電力を買って、それでも採算が合うということは、関西電力などの日本の電気代は不当に高いのではないか?電力会社は安価発電のための企業努力をしているのか?と言いたくなります。

・そもそも地球温暖化の観点から、CO2排出量が最も多いとされる石炭火力を推進するということは国策としてどうなのか?もっと安価でCO2を出さない方法(例えば原子力発電など)を模索すべきではないのか?

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実際には、日本の石炭火力発電技術は非常に優れており、中国などの旧式の火力発電と一緒にしてはいけないのですが、CO2が発生するのは避けられません。

そしてIPPこそ救世主のように語る神戸製鋼の社長の記事を読んで、鉄鋼事業が侮辱されたように感じたのはオヒョウだけではないはずです。

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今、記者会見で涙を流している川崎社長は、そのIPP事業を推進して評価された人です。製鉄会社だけれど、高炉に見切りをつけ、神戸製鉄所の高炉の火を消して、跡地に石炭火力発電所を作ることを決めた人です。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO2276663026102017TJ1000/

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171013-00000072-reut-bus_all

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阪神淡路大震災の後、社員や協力会社の人達が不眠不休で復旧させたあの高炉を、お払い箱にした人です。ちょうどその高炉は、不祥事騒動のさなか1031日に火を消しました。 (高炉としてはそこそこ長寿命でしたが)。

http://www.asahi.com/articles/ASKB002YJKBZPLFA00W.html

今の時代、高炉を製鉄所のシンボルとして火を消してはならない・・と考える人は少ないでしょう。しかし鉄鋼事業を儲からないものとして切り捨てようとした川崎社長に同情する人は少ないかも知れません。

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川崎さんには一言申し上げたい。

昔のブログにも書きましたが、人の上に立つリーダーは不用意に涙を流してはいけません。

彼の涙が、部下から情報が上がらなかったという裏切りに対するくやしさの涙なのか、裸の王様だった自分の無能を恥じる慚愧の涙なのか、あるいは会社を窮地に至らしめた後悔の涙なのか、そこは分かりません。

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でもね、今はその涙を流す時ではありません。

前のブログにも書きましたが、鉄鋼メーカーは経営者がよほど愚かでなければ潰れません。神戸製鋼は潰れないでしょうし、ここは頑張って、経営者として自分は愚かではないと証明すべきです。しばらくは神戸製鋼の信用の回復と経営の立て直しに、奮闘すべき時です。

震災直後の社員のように、今度は経営者が不眠不休で頑張らねばなりません。

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川崎のご隠居が言っていましたが、メーカーでは安全と公害防止と品質保証が、最も重要な項目なのに、実際にはおろそかにされます。 それはこの3項目は金を稼がず、力を入れても、会社は儲からないからです。 しかし、それらは、地域社会との約束であり、顧客や社員との契約でもあります。それをないがしろにすれば、今回のように経営にかかわる大問題になります。

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だからこそ中間管理職ではなく、経営トップ自らが旗を振り陣頭指揮をとらなければなりません。

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では何時まで涙を我慢すべきか?それは神戸製鋼が信用を取り戻し、経営が順調になった時まで・・と言いたいところですが、実際には、そうは行きません。

多分、川崎社長は墓場までこの涙を我慢して持っていくべきなのでしょう。

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普通、高炉を廃止した製造所では、高炉のベルを用いた記念碑を作ります。(最近はベルレス高炉も多いので、ベルを使えない場合もありますが)。

神戸製鉄所の跡地にも記念碑はできるでしょうが、その碑文は、川崎さんの後任の社長が書くのでしょう。 多分

 

「神戸製鋼は、この高炉と同時に、さらに多くのものを失い、その被害は阪神淡路大震災のそれを上回るものであったが、今ここに電力卸の発電所として復活した」

 

とでも書くのでしょうかね。


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【 神戸製鋼について思うこと その5 】 [鉄鋼]

【 神戸製鋼について思うこと その5 】

 

以前、大手鉄鋼メーカーの社長と会長を経験されたOさんにお会いしたことがあります。その方の持論では、「日本の高炉メーカーは多すぎる。経産省もそう考えているし、近い将来、鉄鋼メーカーの経営統合はさらに進むだろう。手始めに、日新製鋼は新日鉄住金の子会社になるだろうし、最終的には新日鉄住金とJFEが合併し、他の国で実現している、11社の時代が来るだろう」とのことです。その直後に日新製鋼は新日鉄住金の子会社になり、社長には柳川さんが就任しました。

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オヒョウが、欧州に駐在した1990年代の後半は、欧州で鉄鋼メーカーの合併が急速に進んだ時期です。 かつてティッセン、ヘッシュ、マンネスマン、クルップ他、多数の有力企業が存在したドイツでさえ、瞬く間に大手鉄鋼メーカーはティッセン・クルップの1社に統合されました。

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それでも国際企業に発展した、アルセロール・ミッタルやタタグループに比べれば小規模です。当時、1000万トンクラブと言われ、年間の粗鋼生産量が1000万トンの規模でなければ生き残れないと言われましたが、今は3000万トンクラブの時代です。

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Oさんがおっしゃる通りだと思った訳ですが、では孤高の存在でとどまる神戸製鋼はどうするのだろうか?と私は思いました。

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神戸製鋼は新日鉄や住金(当時)と株式の持ち合いをして、一応新日鉄グループに属し、両者とは緩い付き合いをしていましたが、それなりに独自性を維持していました。

同社には建設機械や非鉄の事業部があり、鉄鋼業界の好況不況の波の影響を受けにくかったことや、規模が小さいために経営統合してしまうと埋没する恐れがあったからと言われています。

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製品構成としては、好不調の波が激しいシームレスパイプは持たず、安定的需要がある自動車薄板や厚板の割合も小さいのです。一方で線材条鋼では独自の地位にあり、自動車薄板でも他の追随を許さない特殊な超ハイテン材を製造します。

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日産にカルロスゴーンが来て、鋼材の調達先を絞り込もうとした時、この超ハイテンがあったため、神戸製鋼を切ることができませんでした。

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Oさんは神戸製鋼については説明されませんでしたが、「企業の経営統合は、何等かのきっかけがあれば、急速に進む」と言われました。 JFEの誕生も新日鉄住金の誕生も、日産のゴーンショックがきっかけとも言えますし、今回の神戸製鋼の不祥事は、同社が独立して生き残ることを断念させるきっかけになるかも知れません。

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唐突ですが、いしかわじゅんの漫画に「そうよ、みんなきっかけを待っているのよ!」と若い女性が叫ぶ場面があり、その意味が分かりませんでした。しかし、暮らしていると、確かにきっかけさえあれば・・・という場面によくでくわします。

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今回の不祥事が同社の損益にどのような影響を与えるかは不明です。足元は鉄鋼事業も建機事業も非鉄事業も好調で、経営は順調です。タカタのような巨額の損失や債務超過という事態は考えにくいところです。倒産の可能性はまずありません。しかし取引先から巨額の賠償を求められる可能性はあり、顧客も相当失うでしょう。

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最も懸念されるのは米国政府の判断で、彼らは悪意が認められる行為に対しては懲罰的な巨額の課徴金を科しますが、それはしばしば企業の存続を危うくします。

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信用収縮という言葉は、普通は金融上の言葉として用いられますが、神戸製鋼の場合は、技術・品質面での信用収縮が急速に進行しています。

同社では取締役・役員級も不正を知り、これを黙認していたことが判明していますから、経営陣の退任は免れません。 経営陣を総入れ替えとなると、他の製鉄会社と合併する方が早そうです。

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そうなると、企業の生体解剖が始まります。大手企業が経営破綻すると、その中の優良な事業部門を、ライバル企業などが引き取って存続させますが、元の会社はバラバラになります。それをオヒョウは、「企業の生体解剖」と呼びます。例えば、新潟鉄工やサンヨーがそうでした。シャープもそうですし、東芝も解剖台の上に既に上がっています。

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神戸製鋼の生体解剖が始まるかどうかは分かりませんが、始まった場合の展開はそれなりに予想できます。

 

それについては次号で申し上げます。


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【 神戸製鋼について思うこと その4 】 [鉄鋼]

【 神戸製鋼について思うこと その4 】

 

20世紀の時代、日本の大企業は終身雇用制でした。その一方で、一度、就職すれば転職することは難しく大冒険でした。 特に大手鉄鋼の会社間では、一つの会社を辞めた人を他の会社が採用するということはタブーでした。 勿論、これは暗黙の了解であり公にはされませんでした。表向きは、憲法で保証された「職業選択の自由」を尊重しましたが、新日鉄を飛び出した技術者が川鉄で仕事をするということは、実際にはありえませんでした。

(ライバル会社に転職することが当たり前の中国や米国では考えられないことです)。この日本のタブーは知的財産権の保護が目的ではなく、単に雇用主と使用人の間の仁義に拠るものです。 文天祥の時代から受け継がれる「君子二君にまみえず」という古典的な発想です。

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無論、鉄鋼業以外の業界に転職することは可能ですが、製鉄所の技術者達にはジレンマがあります。 優秀で、専門分野に打ち込んだ技術者ほど融通が利かず、鉄鋼以外への転職が難しいのです。 むしろ専門知識が浅く、仕事はチャランポランだけど語学や一般教養を多く持つ人の方が転職にあたっては有利です。皮肉なことですが。

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そうなると製鉄所の技術者は、同業他社にも行けず、他の業界への転職もできないわけで、その会社の中で生きていくしかありません。だから、大震災で被害を受けた家族を放置してでも、職場の復旧にいそしみますし、会社の不正を告発することもできなくなるのです。

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先輩達の不正に気づいても、あらがうこともできず、その「空気」に呑まれ、自分も不正を引き継がざるを得ない、特殊な状況が出来上がります。

でも今はインターネットで誰でも情報を発信できる時代です。匿名性の高い情報発信も可能であり、情報の受け手にも情報リテラシーの高い人が揃ってきました。

(気障な言い方ですが、要は情報の真贋を見抜く眼力を備えた人が増えたということ)。

もはや、大組織の中で不正を隠蔽することはできません。神戸製鋼の場合、隠蔽の限界が2017年に訪れたというだけのことです。

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ではJISなどの審査機関は不正を見抜けなかったのか?という素朴な疑問が湧きますが、JICQAなどの審査を請け負う団体に不正を探知する機能を求めるのは無理です。

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ISOの基本思想は、人は間違いと不正をするものだという人間不信の性悪説です。東洋思想の荀子や韓非子に近い思想です。

だから、嘘を暴き、間違いを確認して責任の所在を明らかにすることを重視します。具体的には徹底した記録主義、証拠主義です。 ある製品で欠陥が見つかった場合、誰が何時どこでエラーをしたのか、遡って確認できなければなりません。

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この遡及可能性を担保する証拠主義が、ISOの真骨頂ですが、この証拠主義は換言すれば、現場・現物ではなく書類を重視する思想です。

中身がデタラメで捏造の塊であっても、書類の体裁さえ整っていれば、問題なく合格となります。不正を意図する側にしてみれば、矛盾のない書類を用意すればいいだけなので、赤子の手を捻るようなものです。 審査官や審査員が実際の分析装置の横で分析に立ち会うことはまずありません。

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ビューロクラシーというかお役所仕事の特徴とも言える、書類主義は昔からあります。

話が飛躍しますが、日本航空の123便が御巣鷹山に墜落した時、原因が圧力隔壁の不適切な修理にあったことがすぐに明らかになりました。 修理した当事者のボーイングと日本航空は糾弾されましたが、一方で、でも修理結果に合格判定を出して、耐空証明を発行した運輸省(当時)の責任はどうなのか?という議論もでました。

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それに対する政府の見解は、運輸省は単に書類の不備が無いかを確認するだけで、現場で現物を確認する義務はないので、ミスを発見することはできなかった。だから瑕疵も責任も無い・・というものでした。

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問題を見つけられないただの書類審査なら、そんな審査は無い方がましだ!と強く憤ったのを覚えています。米国のFAANTSBは、日本の運輸省(当時)よりはるかに詳しく、深く、そしてしつこく調べます。日本はダメです。

そしてJISの審査も、ISOの審査も、書類とインタビューだけです。 西欧の性悪説と日本の性善説が合体した結果、全く無意味で形式的な審査が残ったのです。

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では検査官の熱意に期待できるか?と言えば、それは無理です。JICQAなどに所属し、審査業務を代行する人の多くは、鉄鋼メーカーの技術者のOBなのです。つまり狎れ合い(なれあい)です。

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冒頭で終身雇用に触れましたが、実際には組織はピラミッド状を構成しており、一定の年齢に達すれば、多くの人が社外に出ます。その受け皿として審査機関が大きな意味を持ちます。 工場にいた人には、下請けや協力会社等の受け皿が多くあります。研究所の博士はうまくいけば大学の教員になれます。 しかし、間接部門や管理部門にいた技術者には、出向先があまりありません。一方で鉄鋼の知識は豊富です。だから検査機関に出向・移籍するには好適なのですが、その結果、しばしば審査する側とされる側が、かつて同じ職場の先輩と後輩だったりするのです。

そこに、不正を剔抉する機能は期待できません。

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今頃、神戸製鋼の現場でいかに不正が起き易かったかを議論しても、実は無意味です。 既に不正は明らかであり、評論家がコメントする余地はあまりありません。

大震災が発生してから「実はこの地域は何時地震が起きても不思議ではなかった」としたり顔で語る、間抜けな(自称)地震学者みたいなものです。

むしろ語るべきは、これから神戸製鋼がどうなるか、あるいはどうするかです。

 

これについては次号で管見を述べます。


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