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【 Klein選手と小日本について考える その1 】 [イギリス]

【 Klein選手と小日本について考える その1 】

 

先日、真夜中にTV放映していたウィンブルドンのテニスの試合で、面白いことに気づきました。男子シングルスで、日本の杉田選手が英国のBrydan Klein選手に快勝した試合ですが、NHKのアナウンサーは、Klein選手をクラインと発音していました。活字のマスコミもクラインとカタカナで書いています。でも私には主審の声はクレインと聞こえました。半分寝ていたので、はっきりとは記憶していませんが・・。

Brydan Klein選手は英国籍です。だから英語風に発音すればクレインが普通です。でも、日本のマスコミはクラインと発音します。どちらが正しいのか?

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ご承知の方も多いでしょうが、もともとKleinはドイツ語で、小さいという意味の形容詞です。そして人名にも用いられドイツにKleinという人はたくさんいます。ドイツ語での発音はクラインです。なかでも数学者のFelix Klein,有名なクラインの壺を考案しています。だからクラインという単語は日本人になじみがあります。

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ところで英国にも米国にもドイツ系の人は多く暮らし、最初はドイツ語訛りの英語を話します。それが世代交代とともに、ドイツ語訛りは消えていきます。そして名前もドイツ風の名前から英国風の名前に変化していく訳で、それが、ドイツ系移民が英語社会に溶け込んでいく過程なのです。

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スヌーピーの漫画に登場するチャーリー・ブラウンも先祖はドイツ風のBraunだったのが彼の時代には英語風のBrownになっています。それが彼の家の歴史です。実際、今も米国にはBraunさんとBrownさんの両方がいます。

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英国人のKlein選手も先祖はドイツ系だったと思われます。そして日本のマスコミはそのドイツ人の先祖に敬意を表してクラインと発音したのか?とにかくドイツ語の発音が先に思い浮かび、英語の発音に優先するというのは、少し珍しく、ちょっと面白く感じました。

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しかし、真実は意外なところにありました。Klein選手は、今は英国籍ですが、生まれはオーストラリアでした。そしてオーストラリアの英語には、エイの発音がアイになることで知られる強い訛りがあります。だから、Klein選手の発音は、オーストラリア訛りならクラインで問題なかったのです。ドイツ語の発音は関係ありません。

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しかし、英国本国ではこの訛りは嫌われます。コグニーと呼ばれるこの訛りは、ロンドン南部に暮らす労働者階級の言葉として蔑まれ、上流階級の人は顔をしかめます。BBCのアナウンサーは間違ってもこの発音をしません。(もっとも最近は市民権を得たのか、知識階級の人でもコグニーを話す人もいます)。

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でも、オーストラリアでは大学教授も医師も、皆さんコグニーの発音です。Kleinは誰が発音してもクラインです。しかし英国のウィンブルドンの審判は、コグニーの発音はまずいと思ってクレインと発音したのかも知れません。ちなみにコグニーはエイとアイの発音の違いだけではありません。ほかにもイントネーションを始め、多くの違いというか特徴があります。詳しくお知りになりたい方は、「マイフェアレディ」または「ピグマリオン」をどうぞ。(中身は同じものです)。

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それにしても英国は方言や訛りの強い国です。私はスコットランドでは相手の言っていることがさっぱり理解できず、イングランド北部でもウェールズでも地元の言葉は聞き取れませんでした。そしてロンドンでもタクシーの運転手さんがコグニーで話すと聞き取れません。自分の英語力の無さを痛感させられました。

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Klein選手の名前の発音の問題は、彼がオーストラリア人だったから・・ということで理解できたのですが、別の問題が残ります。それはKleinの意味です。

前述の通り、Kleinは「小さな」とか「ささやかな」という意味で、あまりいい意味とは言えません。それなのにKleinを姓に使うというのはどういうことなのか?

 

その辺りについては次報で考えたいと思います。


【 ホロヴィッツ  その3 Rugby校 】 [イギリス]

【 ホロヴィッツ  その3 Rugby校 】

私が鹿島製鉄所にいた頃、同期に京大でラグビー選手だったY君がいました。彼は会社員になった後も、製鉄所のラグビー選手として活躍し、引退してからも副所長になる頃まで、コーチをしていました。

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ある時、彼とラグビーの話をしていて、私がラグビー選手の意味で、ラガーと言うと、Y君は「オヒョウさん、違いますよ。ラグビー選手のことはラガーメンと言うのですよ」とたしなめるように言ったのです。 「えっ?ラガーメンだって?僕はそんな言葉は知らないよ」「そりゃオヒョウさんが無知なだけですよ」 私は困惑しました。

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やがて、あるオピニオン雑誌に作家の安部譲二が寄稿した文を読みました。彼は慶応時代にラグビー選手でしたし、少年時代に海外生活を経験していて英語もすこぶる堪能です。 彼が言うには、「奇妙な和製英語が氾濫している。 ラグビー選手のことをラガーメンなどと奇妙な呼び方をするので、驚いていたら、どうやらそれはTBSのアナウンサーが作り出した言葉のようで、ラグビーの本家本元の英国にはない言葉だ」とのことです。

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あのTBSですから捏造もするでしょうし、英語の造語もお手の物かも知れません。しかし本当のところはどうなのか? 果たして京大のラグビー選手の言葉が正しいのか?慶応(中退だけど)のラグビー選手の言葉が正しいのか?

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自分なりの回答を得たのは、私がロンドンに駐在していた時です。ラガーメンという言葉は誰からも聞かれません。やはりラガーメンというラーメンみたいな言葉は日本人の造語なのか? 困った時には英国生まれの秘書嬢に訊くのか私のやり方です。

Kate Ford嬢に尋ねると、英国人らしい皮肉を含めて答えます。

「日本の英語にはラガーメンという言葉があるかも知れないけれど、英国の英語ではラガーであり、ラガーメンとは言わない」という明解な回答です。

British English”という表現自体が奇妙でおかしく思えましたが、彼女の説明には理由があります。 

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アメリカ英語がいろいろな点でイギリス英語と異なるのはご承知の通りですが、多くの英国人は、自分達が話すイギリス英語こそが正統で、アメリカ人の英語は正統でないと考えています。 その延長上で、もし日本にも独自の英語というものが確立していたとして、それを否定はしないが、あくまで本家はイギリス英語だと、彼女は主張したいのだと理解できます。

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実際、私自身が話していて、「そうか。それが日本英語”Japanese English“なのか」と妙に納得されたことがあります。 自分の話すへたくそな発音を英語と認めてもらえたことを喜ぶべきか、それとも本物の英語とは程遠いということで馬鹿にされたのか、私としては複雑な思いで返答に窮しました。 今思えば、日本人全体の英語が馬鹿にされたと、怒るべきだったのかも知れませんが・・・・。

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秘書嬢はそれ以上説明しませんでしたが、実はラガーとラガーメンの間には本質的な違いがあります。メン”men”と付く場合、例えばチェスメン(チェスの駒)には人格は認めません。自分の意思で動く選手ではなく、司令塔の命令に従って動くだけの存在です。自分の意思で判断し行動できる場合は、語尾にerが付くPlayerです。

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御存知の方も多いでしょうが、銀行家はBanker、銀行員はBank-menです。後者は単なるClerkであり、銀行を経営する立場ではありません。ロンドン時代、私は下手なゴルフをせざるを得ないことが時々ありました。 ある時、住友対抗戦なるもので、住友銀行や大阪商船三井の駐在員と一緒に回った時、私はバンカーにつかまり、脱出するのに4打を要しました。思わず、私は「だから私はバンカーが嫌いだ!」と言うと、銀行の駐在員が「僕の方を見て言わないでくださいよ。バンカーというのは頭取級の人を指すのですよ」と大笑いしたことがあります。

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ラグビーの場合、監督(コーチ)もいますが、選手は指示通りに動く駒という訳ではありません。自分の意思で行動し、それでいてちゃんとチームワークに則った行動をするのがラグビー選手です。 彼らはラガーであってラガーメンではありません。

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今、最先端のAIを研究している人達は、複数のロボットの協同作業の実現に取り組んでいます。 自律系で動くロボット達が、相互に連絡を取り合い、チームで行動すれば、能力は各段に向上します。 ラグビー選手達はそれを実現しています。

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日本にはもうひとつ誤解があります。 英国では知識階級の青年はラグビーを愛し、労働者階級の青年はサッカーを愛するという噂です。ラグビーがパブリックスクールであるRugby校で生まれたのは事実です。そして大学進学を前提としたパブリックスクールは、基本的に中産階級以上の家庭の子弟が通うのも事実です。

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しかし今は、ラグビーは学生スポーツの域を脱していて、全ての人が楽しむスポーツです。中産階級とか知識階級云々は全く当たりません。 またその逆にサッカーは労働者階級のスポーツというのも的外れです。大学教授でも会社の経営者でもサッカーの熱烈なファンはいます。

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それでも、私がロンドンにいた頃のスター選手だったベッカムの決して上品とは言えない英語を聞いて、「彼のお里が知れる・・」と言った英国人はいましたが。

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スポーツの世界では、急速なグローバル化と同時に、階級レス化が進んでいます。今、英国で上流階級だけがするスポーツは何か?と訊かれたら、うまく答えられません。多分、とてもお金のかかるスポーツであるポロぐらいではないか?と思います。

私には縁が無いので、本当のところは分かりませんが。

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むしろ、選手やチームが一部の学校に偏るのは日本の学生スポーツの方かも知れません。 以前は、なぜか高校野球は商業高校が強く、高校ラグビーは工業高校が強いという時代がありました。 

今は、スパルタンな教育を施す私立高校が、野球もラグビーもサッカーも強いようですが。

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話が脱線しましたが、元へ戻します。

長い間、英連邦諸国や南太平洋の島国の後塵を拝していた日本のラグビーも、近年急速に強くなっているようです。 残念ながら名選手平尾は世を去りましたが、五郎丸という新しいスターは、活躍の場を世界に広げています。

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日本人選手のフィジカルには、まだまだ限界があり、すぐに欧州の6カ国対抗(5カ国対抗?)に通用するレベルにはならないでしょう。その前にラグビー自体が15人制から7人制中心になるかも知れません。

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しかし、日本人選手は、自ら考え、チームとして最適の行動をする訓練を積み、体格は小柄でも強いチームに変化しつつあります。 日本風のラガーメンからラガーへの脱皮です。 東京オリンピックが楽しみです。


【 ホロヴィッツ  その2 刑事フォイルについて 】 [イギリス]

【 ホロヴィッツ  その2 刑事フォイルについて 】

退職が近づく初老の警察官、必ずしも思い通りにならない宮仕えの立場、ロンドンではない田舎の勤務、戦時下での窮乏生活、妻を早くに亡くし、息子は遠くに暮らす孤独の日々・・・。 主人公は必ずしも晴れやかな人生を歩む成功者ではありません。 年齢も近い私などは実に感情移入がしやすい設定です。

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初老の勤め人の哀歓を、上品に描いたヨーロッパ映画は他にもあります。イタリアのピエトロ・ジェルミ監督の「鉄道員」もその一つです(高倉健のではありません)。 しかし「刑事フォイル」は、あくまで英国紳士で、不平不満は面に出さず、淡々としている点が「鉄道員」とは異なります。

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警視正という役職は日本なら警察署長の上に位置し、相当の高官ですが、フォイルの場合、多くの部下を持つ訳でもなく、田舎の警察署でひたむきに問題を解決する日々です。異動を希望しても許可されず、反りの合わない上司と衝突して辞表を出したりもします。普通の日本のサラリーマンに似ています。

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彼の高い教養から推測するに、かなりのインテリで、本来はエリートなのでしょうが、暮らし向きは庶民です。 英国は中産階級がいち早く出現した国ですが、フォイル警視正は庶民と中産階級の間に位置する知識階級の人です。貧乏ではないけれど、お金持ちではない。 そして、ある矜持のもと、権力を持つ上流階級の人に対しても臆せず、毅然としています。この人物設定は、現代の多くの視聴者の共感を得るのに好都合です。

なぜなら現代は、日本も英国もそれほどお金持ちではない、しかし矜持を持った知識階級の人が多数派だからです。

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先日、この「刑事フォイル」を見ていて、びっくりしました。主人公のフォイルが、無能で無理解な上官と対立して辞表を出し、警察署を去ったのです。 その時、まさに私も辞表を書いていたのです(形式的なもので、一身上の都合により・・というものですが)。

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フォイルの辞表は実に格調高く、簡潔で適切な文章です。それに比べて私の辞表のなんと無内容なことか・・。 恥じ入るばかりです。 歴史上、最も有名かつ格調高い辞表は、陶淵明の「帰去来の辞」でしょうが、私の辞表はその対極で、くだらない文章の極致です。 フォイルの辞表はその中間辺りでしょうか?

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一方で、フォイルに対して、なぜ「あんたが無能だから部下をやってられない」と本音を語らないのか?というじれったさも感じます。

そう言えば、その昔、「ベンチがアホやから野球をやってられない」といってプロ野球選手を辞めたピッチャーがいました。

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そのピッチャーが「ベンチがアホやから・・」と言った時に、ある種の爽快感を味わったサラリーマンは多いはずです。 なぜ、辞表を出す勤め人は格好よく見えるのか?そして潔く職を辞する態度になぜ人は憧れるのか? 私には何となく理解できます。 でもうまく表現できません。 では作者のホロヴィッツはどう考えていたのか? 彼自身を見てみれば分かるかも知れません。

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この設定を考えた作家のアンソニー・ホロヴィッツとはどんな人物なのか・・?

彼は1955年生まれ、オヒョウにごく近い年齢です。 民間企業なら定年を迎えた直後くらいです。 「刑事フォイル」のフォイル警視正は、作者の実年齢に近いのです。だから人情の機微を精密に描写できるのかも知れません。

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ホロヴィッツの生い立ちをWikipediaで調べてみれば、さらに詳しいことが分かります。

彼はLondon Paddingtonの比較的に裕福なユダヤ人の家庭に生まれ、少年時代は太っていたとのこと。子供の頃のコンプレックスは人格描写に陰影を付けるのに適しています。

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そして彼は、パブリックスクールはRugby校に通い、大学はYork大学を卒業しているとのことです。それほど優等生ではなかったらしい・・・。

London Euston駅から、West Coast Main Lineを西に向かう特急列車Inter Cityに乗ると、最初の停車駅がRugbyです。エリス少年が思わずサッカーボールを抱えて走り出してしまい、ラグビーという新しい球技ができてしまった、あの名門校ラグビー校はその町にあります。 しかし、ラグビー校はイートン校やハロー校ほどの超エリート学校ではありません。 そしてその後、進学した進学したヨーク大学も名門ではありますが、オックスフォード大学やケンブリッジ大学ほどの一流大学ではありません。

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もともと大学が少ない英国では、今でも大卒はそれなりの教養人として扱われますが、オックスフォード大学とケンブリッジ大学以外は、赤レンガ大学(日本で言うところの駅弁大学)と言われて差別されるのも事実です。 ホロヴィッツはインテリだけれど、本当のエリートではない、少し屈折した教養人なのかも知れません。そしてそれをフォイル警視正に投影しています。

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ドラマに登場するフォイル警視正は、時々、息子のことを語ります。「オックスフォードにいたが、応召して今は空軍にいる・・・」とサラリと語るのですが、そこに息子自慢がちょっと現れます。「爆撃機に搭乗しているのか?」と訊かれて、「いやスピットファイアだ」と答えるあたりも、エリートの戦闘機パイロットであることを自慢したがっています。インテリは、自慢する時に限って、そっけなくそして何気なく語るのです。そしてその短い会話に、微妙に彼のコンプレックスと自慢が現れます。

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それにしても、彼は何と格好いいのか。 決して笑顔を見せず、笑う時も少し頬を緩め、唇の端を上げるだけです。頭髪はかなり少なく、ハンサムとは言えない風貌です。立ち回りもせず、走る事もせず、見得をきる訳でもありません。車の運転すら滅多にしません。でも落ち着いたしぐさと思慮深い話し方と鋭い洞察力だけで、十分に格好いいのです。 かつての英国に多かった典型的な紳士の挙措です。 アメリカにはあまりいないタイプです。多分、ホロヴィッツもそのような男性に憧れ、そのような男を主人公にした作品を書いたのでしょう。 そして同世代の視聴者である私も、同じ感覚で、このドラマを眺めるのです。 だから、このドラマは私には理解しやすく、感情移入も容易なのです。

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アンソニー・ホロヴィッツは、このまま作品を出し続けるなら21世紀のグレアム・グリーンになれるかも知れません。でも彼がそう呼ばれるのを好むかは不明ですが。

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「それにしても・・」ともう一度考えます。 退職願を出し、職を辞する男はどうして格好良く見えるのか? 実際には、しばしば惨めであったり、ある種の屈託をもたらすものであるのに。


【 ホロヴィッツ  その1】 [イギリス]

【 ホロヴィッツ  その1】

私達の年代では、ホロヴィッツと聞くと、名ピアニストを思い浮かべます。 でも私のイメージでは、かなり衰えたお爺さんのピアニストです。彼の来日公演をTVで見た時には、がっかりしました。稀代の名演奏家と聞いていたのに、音は外すし、鍵盤を叩く指に勢いは無いし、さっぱりでした。

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TV放映の翌日、誰かにその話をしました。「麒麟も老いては駑馬に劣る」というけれど、ちょっとがっかりしたと言ったら、彼も同感だったらしく、複雑な表情をして「それでも、何と言ってもウラディミール・ホロヴィッツだからなぁ」ということで、私達の間では、暫く、「腐っても鯛」の代わりに、「老いさらばえてもホロヴィッツ」というひどい例えが使われました。 若かった頃は、随分失礼な表現で他人を貶したものです。

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しかし、それは昭和の時代の話です。今、ホロヴィッツといえば、私にとっては、アンソニー・ホロヴィッツです。今NHKで放映している「刑事フォイル」は彼の作品です。

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先日、「名探偵ポアロ」の「ヒッコリー・ロードの殺人」を見た時、「あれっ?どこかで見た雰囲気だぞ・・」という一種の既視感に捕われました。 そして脚本のクレジットを見て納得がいきました。この作品の原作は勿論アガサ・クリスティですが、脚本はアンソニー・ホロヴィッツだったのです。 「名探偵ポアロ」の一連のシリーズは、何人かの脚本家が、書いており、ホロヴィッツはその内の11作品を担当したとのことです。

具体的には、下記の11作品で、詳細は、下記のURLをご参照願います。

The Million Dollar Bond Robbery

The Double Clue

The Mystery of the Spanish Chest

The Theft of the Royal Ruby

Yellow Iris

Dead Man's Mirror

Jewel Robbery at the Grand Metropolitan

Hickory Dickory Dock

Murder on the Links

Lord Edgware Dies

Evil Under the Sun

http://www.anthonyhorowitz.com/television/series/poirot

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私が既視感を覚えたのは、作品の雰囲気が「刑事フォイル」のそれに近かったからです。 時代背景としては、「刑事フォイル」は第二次大戦中、「ポアロ」は2つの大戦に挟まった、つかの間の平穏な時代(それでもヨーロッパ大陸の方はきな臭くなり、英国に暮らす人々は不安を感じていた時代)です。 だから時代背景としては微妙に違うのですが、微妙な共通点があります。 それはアールデコ調の調度やファッションではなく、登場人物の性格や物腰、話し方です。

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同じ原作者でも演出家や脚本家によって、ドラマの雰囲気は変わります。「名探偵ポアロ」の各作品で、演出家による違いを示せ・・と言われても困るのですが、アンソニー・ホロヴィッツの作品だけ、私にはピンと来たのです。

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しかし本当のところ、「名探偵ポアロ」は、私には理解てきない部分があり、少し苦手なドラマです。 グラナダTVが制作したジェレミー・ブレット主演の「シャーロックホームズ」の方が、よくわかります。

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「名探偵ポアロ」について言えば、私は、アガサ・クリスティの原作を既に読んでいて、どうしても映像を自分のイメージと対比させてしまい、ズレを感じます。それに、デビッド・スーシェの卵型の頭と特徴的な髭、それに熊倉一雄の吹き替えのセリフのキャラクターが濃すぎて、少し抵抗を感じるのです。熊倉一雄は私の大好きな声優ですし、彼以上にデビッド・スーシェの吹き替えを上手にできる人はいないでしょう。

でもそれゆえに、イメージが強すぎて固定化されてしまいます。ちょうど寅さんといえば、渥美清しかイメージできないように。

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さらに言えば、エルキュール・ポアロの第一の特徴がベルギー人であることです。いつもフランス人と錯覚されることに憤慨し、そして少しだけなまった英語を発音します(フラミッシュ語ではなくフランス語の影響を受けた訛りです)。

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これはこの推理小説にとって重要な点ですが、かなり微妙な特徴です。英国に暮らす外国人が話す英語に外国訛りがあるのは当然ですが、正統なBritish English (変な言い方ですが)でないために、奇異な目で見られることがあります。

当たり前ですが、英国には、英国人でなくても英語を母国語とする人がたくさんいます。アメリカ人、オーストラリア人、カナダ人、南ア共和国人、インド人、シンガポール人、ニュージーランド人、ケニア人・・・。 しかし彼らの英語にはそれぞれに特徴があり、全て微妙に訛ります。 

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それにより、僅かながら区別というか差別があります。母国によって微妙に区別されるのです。英語を母国語としない外国人(フランス人、ドイツ人、日本人等)の場合はなおさらです。 その英語は訛りが強く、その発音で相手がフランス人かドイツ人かが分かるくらいです。当然、それらは、差別の対象になりえ、特に英語の下手な外国人は軽蔑の対象になりえます。 しかし、フランス訛りの英語は軽蔑の対象とならないようです。英国ではフランス人とフランスの文化は一目置かれます。

かつての英国ではフランス語とラテン語は教養の象徴であり、気取って話す時は、フランス語やラテン語を混ぜたりします。だからフランス語訛りでも軽蔑されないのです。しかし、それがベルギー人となると、少し微妙です。英国人は大国ではないベルギーの人を少し軽く見ています。

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その微妙なコンプレックスは、ベルギー人を主人公にしたアガサ・クリスティの小説の深みを増すことに役立っています。 エルキュール・ポワロを演じるデビッド・スーシェの微かにベルギー訛り(フランス語訛り)の英語の発音は効果的です。

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しかし、熊倉一雄の日本語のセリフにそれを求めても無理です。だから、私にはアガサ・クリスティが描こうとした「名探偵ポワロ」を完全に理解することは無理なのです。

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では、同じくホロヴィッツが脚本を書いた「刑事フォイル」の方はどうか・・と言えば、こちらは、ずっと理解しやすいのです。 そしてこれはアガサ・クリスティのような原作者を持たず、ホロヴィッツ自身が書いた作品だから理解しやすく、しっくり来るのだと思います。 この辺りのことは次報で申し上げます。


【 エリナー・リグビー 】 [イギリス]

【 エリナー・リグビー 】

 

一昨日、英国通過のポンドが大きく下落しました。

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-01-16/OJV6GU6VDKHV01

背景には、EU離脱の交渉を始めた英国経済への不安があるようです。

EU離脱の交渉にあたる、哀愁の漂うメイ首相の表情がTVニュースで流れました。

なんとも難しい交渉です。まだEU離脱を決めていない段階なら、彼女にもカードはあり、交渉の余地はあるのですが、既に脱退を決めた上で、英国にとって少しでも有利な条件で脱退しよう・・というのは困難な交渉です。

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同盟を脱退する手続きについて、私に名案がある訳でもありませんが、最も愚かなのは、国際連盟を脱退した時の松岡洋右のやり方です。面子にこだわったのはいいとして、周囲を全て敵にしてしまい、日本としては何も得るものがなく、孤立を深めるだけ・・の結果になりました。そして仲間から飛び出して孤立した後に擦り寄ってくるのは、いつもチンピラです。国際連盟の代わりに日本が付き合ったのは、ナチスドイツとファシスト党のイタリアでした。

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英国のEU離脱はそれとは違いますが、前述の通り、離脱が決まった後の交渉は難しく、気の滅入る作業でしょう。ちょうど離婚を決めた後に子供の親権を争うようなものでしょう(私に経験はないけれど)。

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英国には苦い記憶があります。1992年のポンド危機です。EUERMからの離脱を強いられたこの経済危機では、一瞬の間に英国の富は10億ドル以上も失われ、ヘッジファンドを肥やす結果となりました。今回も下手をすれば、英国のポンドは売り浴びせられる可能性があります。

そしてEU離脱でぐずぐずしていれば、EU残留派の多いスコットランドが今度は英国からの独立を画策するかも知れません。 内憂外患の中の孤独な彼女です。

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苦悩に満ちた彼女の顔を見ていて、ふとビートルズの「エリナー・リグビー」が聞こえた気がしました。勿論空耳ですが。

日本ではあまり流行りませんでしたが、これはビートルズの代表的なヒット曲のひとつです。 孤独な高齢女性のみじめな姿を、写実的に表現する曲ですが、ポール・マッカートニーが、このおばあさんを、あざ笑い冷やかしているのか、それとも同情しているのか、ともに悲しんでいるのか、それが分かりません。だから、日本では人気が出なかったのかな?

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歌詞のあらましを書きますと、

ほら、あの孤独な女性 エリナー・リグビーを見てみろよ! 教会の結婚式で米粒を拾っているぜ。あの孤独な老人達に居どころはあるのかな?

マッケンジー神父はお説教の原稿を書いているぞ。どうせ、誰も聞きやしないのにね。

あれあれ、靴下の穴を自分で繕っているぜ。

エリナー・リグビーが死んでも、誰も葬儀には来なかった。教会の墓地に葬られ、泥だらけのマッケンジー神父がくたびれて、帰っていくぞ。

あの孤独な人達はどこへ向かうのかな?彼女らに居どころなんてあるのかな?

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ちなみに、エリナー・リグビーは結婚式のライスシャワーの米粒を拾っている訳ですが、スズメじゃあるまいし、地べたに落ちたお米を拾うとは思えず、撒かずに残ったお米を貰っているのだと、私は思います。

私の記憶なので、一部不正確かも知れませんが、考えてみればひどい歌詞です。日本で流行るはずがありません。

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ビートルズには孤独を歌う曲が幾つかありますが、老人の孤独をみじめに扱った曲は多分これだけです。では私がなぜTVニュースを見ていて、この曲をイメージしたか?

この曲のイメージがメイ首相に重なる訳ではありません。老大国英国がこれから味わう孤独感がエリナー・リグビーに重なるのです。

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そもそも、私がエリナー・リグビーでひっかかるのは名前の発音です。Eleanorと言えば、私の感覚では発音はエレノアです。 エレノアで有名なのはエレノア・ルーズベルト。 あのフランクリン・ルーズベルトの奥さんで、単なる大統領夫人の枠を超えて活躍した人です。 大学を経営したあたりは日本の鳩山薫子さんあたりと似ていますが、もっと女丈夫でした。(彼女の問題点は日本に対して非友好的だったこと)。

だからエレノアと聞くと、孤独でみじめなお婆さんをイメージすることはできないのです。

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メイ首相の前の女性首相と言えば、あの鉄の女ことマーガレット・サッチャーです。サッチャー首相は、英国病を打破して経済を成長軌道に乗せ、北海油田で富とエネルギーを手にし、フォークランド戦争に勝利して、英国を復活させました。サッチャーと比べると、いかにもメイ首相は損な役回りです。

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おばあさんにせよ、老大国にせよ、いずれ孤独感を味わうのは仕方のないことです。人は皆さん、いつか孤独感にさいなまれます。 その孤独感を鋭く表現したのは、倉田百三の「出家とその弟子」ではないでしょうか? この作品には多くの逸話というか、allegoryが登場しますが、その中に、弟子の唯円が親鸞に寂しさを訴える場面があります。

唯円が「寂しい」と訴えると、師匠の親鸞はそれを理解した上で、「お前の寂しさは、対象によって癒される寂しさだ。 私の寂しさはもう何者でも癒されない寂しさだ。人間の運命としてのさびしさだ」と語ります。

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これを少年時代に読んだ時、私は、大人になっていくということは“他者によって癒されない絶対的な寂しさ”を味わい理解していく過程なのだな・・と勝手に解釈しました。

癒されない寂しさを、何とか乗り越えたいと思ったのは、詩人の若山牧水です。彼は「幾山川 越えさり行かば寂しさの 果てなむ国ぞ今日も旅ゆく」と詠んでいます。

でも、牧水も知っていたはずです。 他者に癒されない絶対的な寂しさは、どこに行っても決して癒されないことを。

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そして彼だけでなく、多くの人が、解消する手段が無いことを知りながら、この運命としての寂しさを抱きしめているのです。 多分、メイ首相も、そして多くの英国民も。


【平成の終わり? その1】 [イギリス]

【平成の終わり? その1】

天皇陛下が生前退位を検討されているというニュースがマスコミを駆け巡りました。しかし、政府(官房長官)も宮内庁長官も否定している以上、真偽を確認する方法はありません。天皇陛下に直接質問する訳にはいかないからです。

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かつて天皇誕生日は天長節と呼ばれました。また国家「君が代」は大君の御代が長く続くことを願った歌詞です。誰もが国家元首の長命と安泰を願う訳ですが、「そうでもないぞ。いいことばかりではないからな」と、かつて語ったのは明治時代を生きたオヒョウの祖父です。

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「かつて英国では国王(女王)が長く在位しすぎたために、皇太子がいつまでも即位できず困った事態になったことがある」というのです。皇太子といえば、さっそうした青年や少年を思い浮かべますが、英国では老境に達した皇太子が存在したというのです。

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これは、ご存じの方も多いでしょうが、英国が最も栄えた時代の元首であったヴィクトリア女王の息子エドワード7世のことです。史上最も長くPrince of Walesであった人とされていますが・・・、もうじきチャールズ皇太子にそのタイトルを取られそうです。

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エドワード7世は、英国ではあまり評判がよくありません。一部の英国人の間では「暗愚の帝王」と言われていました。 もっとも、英国人の考え方についての私の情報というのは、ロンドン事務所の秘書だった英国王室ファンの女性・・その他、2,3人から聞いただけで、全英国民の意見を代表しているとは言えないのですが・・・。彼女の説明では、エドワード7世は若い頃、学校の成績がよくなかったとか、素行が悪かったということらしいですが、何より、英国が一番栄えた時代を長く統治した母親のヴィクトリア女王と比較されるからです。 皇太子時代が長かった彼は、当然ながら国王だった時代は短く、特筆される業績は残していない・・とのことです。

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しかし、それは英国人の見方で、日本から見れば違います。彼は日英同盟を実現し、日本との関係を強化しました。先帝のヴィクトリア女王が帝国主義に基づいた拡張主義(もっと言えば戦争で植民地を奪い取る作戦)で成功したのに対して、彼は平和の王であり、平和主義で成功した王です。

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ヴィクトリア女王がもっと早く退位してエドワード7世に地位を譲っていれば、世界史は変わったかも知れません。

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私の祖父は、英国で19世紀に存在した「年老いた皇太子」のことを考え、国家元首が長く在位するのはいいことばかりとは言えない・・と言いたかったようです。

これは外国のことだと片付ける訳にはいきません。日本の東宮だって、もう50代です。

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今上天皇は、自らの高齢と長期に亘る在位期間の是非を考える際、大正時代の終わりに皇太子(昭和天皇)が「摂政」に就かれたことを詳しく研究されたとのことです。

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高齢故に天皇の国事行為を全うできず、その内の一定量、或いは多くを摂政(具体的には皇太子)に委ねる検討ですが、この検討が可能なのは天皇陛下ただ一人です。

なぜなら、摂政を置くという事は、天皇陛下にはもはや国事行為は無理です・・と言うに等しいことですから、そんな無礼なことは、下々から申し上げる訳にはいきません。

大正天皇の場合は、御不例が深刻で、誰もが皇太子殿下(昭和天皇)の摂政就任を求めた訳ですが、少なくとも精神面はまだまだご健康な今上天皇が、摂政を置くのは、恣意的でわがままととられるかも知れません。生前退位となるとなおさらです。

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最大の問題は、摂政を置くにせよ、生前退位にせよ、皇室典範の変更または何らかの立法装置が必要となります。 そうなると政治に介入できない天皇陛下には発議できません。憲法違反になるからです。

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天皇陛下以外は提案できず、しかし天皇陛下は自ら進退について語れない・・という矛盾のために、戦後の天皇制は終身制となる訳です。なんだかおかしな話です。やはり現行憲法は少し杜撰なのではないか?

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皇室の話とのアナロジーで語るのも、畏れ多いのですが、民間企業の経営者の世代交代もなかなかうまく行きません。 こちらはどちらかというと、功なり名を遂げた経営者が後進に道を譲ろうとして、誰に譲るか、或いは何時譲るかで、コタゴタが発生する訳ですが、本音を言えば引退したくない経営者が、欲を出して後進に席を譲ることを拒否する例が多いようです。親子の間でも骨肉の争いが起こるというか、むしろ血がつながっている方が憎みあうみたいで、一流企業でこんなスキャンダルが出るのは見苦しい限りです。 それに比べれば、皇室は、辞めたくても辞められないトップがそのことに悩む訳で、問題の質としては、はるかに上品です。

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そしてもう一つ、宸襟を悩ませるのは、現在の皇太子妃雅子妃殿下のことです。彼女は、ご病気のこともありますが、いまだ皇室になじまず、溶け込めていないのではないか? ロイヤルファミリーになじめないのは仕方ないとして、皇室の重要な役割である、社稷を守ることと並ぶ、国民と共に歩む・・ということが、これでは無理なのではないか?と思われることです。果たして国民は彼女を皇后陛下すなわち、国母として仰ぎ見るでしょうか?

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現在の皇后陛下である美智子妃殿下も、大変なご苦労の上に、国民からの信頼と敬慕の思いを受けられるようになったのですが、雅子妃殿下にはまだその覚悟が足りないのではないか?

マスコミは、生前退位によって皇太子が空席になる・・という問題を取り上げていますが、最大の問題は、国民に愛され尊敬される皇后陛下となるか・・・です。

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でもまあ、雲の上のやんごとなき方々の世界は、私には関係ありません。むしろ私にとって非常に重要なのは、平成という元号が終わるかも知れない・・ということです、

なぜなら、元号は一世一元と決められているからです。

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これは重要な問題ですが、次号で、考えたいと思います。


【 ジョンブルは、孤立の憂愁を甘受するのか 】 [イギリス]

【 ジョンブルは、孤立の憂愁を甘受するのか 】

 

英国が、EUを離脱する可能性がますます高くなってきました。もともと、英国内には他のEU諸国と距離を置く姿勢があり、国民も、大陸とグレートブリテン島と北アイルランドは別の存在だと認識する人が多くいました。英国人がヨーロッパという場合は、しばしば自国を除く大陸諸国を指し、英国はヨーロッパではないという意識が背後にあります。輸入品を扱う店の名前が「ヨーロピアン何とか」だったりします。

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英国はもともと、EUの加盟国ではありますが、シェンゲン協定にも参加せず、共通の通貨であるユーロを使わず、英ポンドを使っています。1990年代にユーロの採用を検討したことがありますが、当時ハゲタカのようなヘッジファンドが、英国を標的にして、徹底的にポンドを売り浴びせました。その結果、ほんの数日間に、英国は莫大な国富を失い、ユーロ加盟を断念せざるをえませんでした。

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表向きは、かつて世界の有力な基軸通貨であった英ポンドを捨てられないとか、旧EECに対抗するEFTAの盟主として、単なるEUの一員にはなれない・・という事情を語っていましたが、本当は懐の事情があったことを、当時英国にいた人は知っています。

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同じように、EFTAに義理立てしてEUに加盟せず、独自通貨を使用する国にスイスがありますが、国の規模が違います。それにスイスは永世中立国であることを宣言し、かつ旧国際連盟の本部がある国で、他国と徒党を組む事に慎重です。英国とスイスを同列で議論することはできません。

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英国には、かつての植民地の緩やかな連合である英連邦があり、その盟主であるという事情もありますが、この結びつきは21世紀になってから急速に弱くなっています。

ユニオンジャックを国旗の一部に使い、エリザベス女王を国家元首に戴く国々についても、20世紀の頃の求心力はありません。今、英国がEUを脱退しても、他の国家連邦の盟主として君臨することはないのです。 単なる一島国になるしかありません。

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英国に脱EU論が高まっている理由については、今回の女性議員射殺事件で広く報道されています。

1.     移民の受け入れ問題

2.     ギリシャ等の経済破綻の尻拭い  等で

英国が過大な負担を求められることに、堪忍袋の緒が切れた・・のだそうです。

しかし、根底には別の理由があると思います。本当の問題は、移民受け入れにせよ、ギリシャの救済にせよ、EU内でドイツとフランスが主導して決定したこと、もっと言えばドイツのメルケル氏の判断で多くの決定がなされ、その結果を英国に押し付けられた事への反発があるはずです。

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EU内部での政策決定は、決して民主的ではないようです。加盟国が平等な発言権を持つ訳ではなく、圧倒的な経済力を持つドイツの影響が強い形になります。それをカムフラージュするためか、ドイツの首脳はフランス大統領と頻繁に意見交換しますが、EU内の外様である、英国の意見はあまり尊重されません。

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それに耐えかねたジョンブル達がEUに反旗を翻したい訳で、移民問題はきっかけに過ぎません。

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では、EUを脱退した後に、英国を待ち受けるのは何か? かなり厳しい将来が待っています。 世界経済圏は、北米(NAFTA)、EU、中国、日本、ASEANという具合にブロック化が進んでいます。 経済が不況になると、経済のブロック化が進むのは、20世紀に経験した通りです。

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英国単独では、それらの経済ブロックに対抗できません。経済規模(工業生産力、市場規模とも)が圧倒的に小さいからです。 EU脱退と同時に予想されるのは、英ポンドの大幅下落と、スタグフレーションの始まりです。

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かつて、大きな組織から離脱した国家がどうなったか・・。

20世紀、国際連盟を脱退した日本は、急速に孤立しました。孤立した日本は、とんでもないチンピラ(ナチスドイツやイタリアのファシスト)を仲間にして、滅亡の道を突き進みました。 日本は米国などと袂を分かち、単独で生きていけると思ったのですが、そうではありませんでした。

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一方、ほとんど、マレーシアから放り出される形でシンガポールが独立した時、将来の不安と情けなさでリー・クアンユー氏は涙が止まらなかったと語っています(日経新聞 私の履歴書)。 しかし、シンガポールは特異な都市国家として繁栄を極めています。

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同様に国際連合から放り出された中華民国(台湾)は外交的には孤立しながらも経済的には概ね繁栄しています。 大陸(中国)からのプレッシャーに常に危機感を持ちながら、独自の国家運営を模索しているのです。

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単独でも問題なくやっていけると考えた夜郎自大な国は破滅し、危機感を強めた国は成功しています。 英国はどちらになるのか?

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実は英国だけでなく、孤立の道を歩もうとしている国があります。中華人民共和国です。

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領海や領土問題、国際ルールを無視したふるまい等、敢えて周辺諸国との融和の道を拒否して敵対し、対中包囲網を作るならどうぞ・・という姿勢です。こちらは夜郎自大というより行き過ぎた中華思想と言えますが、本当は、中国は一匹狼になりたい訳ではないようです。

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かつて、日本が経験した事の轍を踏むほど愚かではなく、この国はしたたかです。確たる根拠はありませんが、EU的な国家群をアジアに作り、そこでドイツのような盟主になりたいようです。 それが古代からの、中国の理想像のようです。うまくいくとは考えにくいのですが。

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しかし英国は中国と違い一匹狼を模索しているみたいです。やがて、キャメロン首相の後継者がEUの会合で、日本の松岡洋右がしたような「声涙ともに下る」演説をして、「名誉ある脱退」を宣言する日が来るかもしれません。 しかし、それは英国経済に決して良い結果はもたらさないでしょうし、世界経済、日本経済にとっても、リーマンショック以来の経済ショックになるかも知れません。

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何とか世界全体のために、英国の人々には短慮に走らないようお願いしたいと思います。


【 マクベスは誰に殺されたか? 】 [イギリス]

【 マクベスは誰に殺されたか? 】

野村萬斎が演出と主演をするマクベスの前評判が高いみたいです。

http://setagaya-pt.jp/performances/20160615macbeth.html

彼に限らず、狂言師が現代演劇に取り組むと、斬新で実験的な演出が試みられ、とても見ごたえがある・・・・・・場合もあります。

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「世田谷かぁ・・・チャンスがあれば見たいなぁ」などと考えますが、広島にいては難しいところです。さてどうしたものか・・。 ところで、実はマクベスには、興味深い点が幾つもあります。

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シェークスピアが16世紀に書いたこの作品は、まるで21世紀の科学を見据えたような作品です。例えば・・・、

1. マクベス夫人の発狂と強迫観念

まるで現代の精神医学をマスターした上での演出のようです。

自分が殺害した人物が、幽霊となって、現れる・・というだけなら、シェークスピアでなくても、よくあるパターンです。そもそも英国は世界で最も幽霊が多い(または幽霊の目撃が多い)国です。日本の謡曲にも幽霊は普通に登場しますから、日本も英国に負けないと思うのですが・・・。

でも幽霊だけではありません。どんなに洗ってもに付いた血が落ちない・・という妄想は、多くの精神疾患で見られる典型的な症状だそうです。16世紀の英国にも狂女はいたでしょうが、シェークスピアがその症状を観察していた・・というのは驚きです。

2. 宙に浮く短剣(ダガー)

マクベスの妄想の中で現れ、彼を導く存在で、映画では容易に表現できますが、舞台演出では難しいところです。小道具程度の大きさの物体を宙に浮かせるというのは、昔は簡単ではなく、手品の場合はテグスやナイロンの糸で吊っていました。

現代はそれに勝る方法があります。超小型のモーターと、プロペラで宙に浮かせるラジコンヘリコプターがそれで、普通に、おもちゃ屋さんの店頭に並んでいます。ちょっと大型で、物を運んだりカメラを装着したものは、最近はドローンと呼ばれています。

現代なら、ドローンに短剣を吊るせば、簡単にマクベスを驚かすことができます。

3. 3人の魔女の予言

(1)バンクオーの子孫が王になる

(2)女の股から生まれた者にマクベスは倒せない

(1)バーナムの森が動かない限り、マクベスは倒されない。

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この魔女の予言が、この戯曲のポイントですが、解釈の難しいところです。

1番目はさておき、2番目の、女の股から生まれた者・・という表現は、いろいろに解釈されます。昔から、英国では、人類、動物全体を指す時に、女から生まれた存在・・という言い方をしたそうです。

シェークスピアは、誰にも倒せない・・という意味を、普通に比喩的に用いられる「女の股から生まれた者に・・・」という表現で示し、そして最後にそれが比喩ではなく、本当に意味を持った言葉だとしています。 なんだか揚げ足取りのようですが、これは現代に於いて、別の意味を持ちます。

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実は、最後にマクベスを倒すマクダフは、女の股から生まれた・・つまり経腟分娩ではなく、帝王切開で生まれた(母の腹を蹴破って出てきた)のだ・・という落ちなのですが、帝王切開が普通に行われる現代では意味を持ちません。シェークスピアが現代の産科学を予見していたかは・・不明ですが。

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脱線しますが、ありとあらゆる人、生きとし生けるもの・・を表す表現は他にもあります。

女の股・・という露骨な表現ではなく、女から生まれた者という表現もあります。ちなみにお釈迦さまは母親の腋の下から生まれたそうです。 それでも女から生まれた存在・・には、一応、該当します。

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さらに、生きとし生ける者を表す時に、生命(いのち)ある者から生まれた者・・という表現もあります。これには連綿と続く生命のリレーを示す意味もありますが、これも現代医学の元では怪しくなってきました。

脳死状態にある女性が出産し、赤ちゃんが生まれる例が数多くあるからです。

http://benyamin.sakura.ne.jp/2009/01/post-251.html

http://www6.plala.or.jp/brainx/birth.htm

今、日本では脳死は死であると判断され、移植用臓器が取り出されます。しかし、それには反対する人も多くいます。脳死状態の母親から生まれた子供たちは、それをどう思うでしょうか?「脳死が死であるならば、僕たちは、生命ある存在から生まれた者ではないのか?」 これはマスコミがほとんど取り上げない問題です。

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今現在、シェークスピアが生きていてマクベスを書いたなら、魔女たちに、「生命ある者から生まれた者にマクベスは倒せない」と予言させます。そして、マクダフには「俺は脳死状態の母親から生まれたのだ。おれは脳死を死だとは認めないがね」と語らせます。 そしてマクベスを倒したのは、生命ある人間ではないというのか?・・と、脳死を死と考える人々に問いかけます。

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3番目の「バーナムの森が動かない限り、マクベスは倒されない」というのは、しばしば議論されます。

第一に、どうして山ではなく、森なのか? 東洋では動かないものの代表は山です。武田信玄の「風林火山」で「動かざる事山の如し」という言葉は、中国にある例えを丸写しにしたもので、もともとは中国で山が動かないものの代表だったのです。それを動かしたのは愚公ただ一人・・と中学校で教わりました。 今でも、中国の山は動きませんが、砂漠は動いています。そして現在、首都北京に迫っています。

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日本でも消費税反対を唱えて、選挙で大勝した社会党(当時)の女性党首は「山は動いた!」と叫びました。彼女も動かざるものの代表として、山を考えたようです。

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しかし、ご承知の通り、英国には山がほとんどないのです。特にスコットランドは造山運動の老年期にあたり、氷河が削り残した丘が存在するだけです。だから山の代わりに森なのか? そこは分かりません。シェークスピアが、東洋では山が動かないものの象徴だ・・ということを知っていたかも不明です。

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そして、ご承知の通り、英国には、本格的な森も無いのです。スコットランドや日本人が好きな湖水地方には幾らか残りますが、これも大陸国家の森に比べればささやかなものです。産業革命当時、石炭を燃料にする前に森を切り倒して薪にしてしまったのです。だからロビンフッドもアイバンホーも、現代なら、隠れる森が無くて困るでしょう。 海を挟んで反対側のノルウェーには、天然の森が繁るのに・・と憧れたビートルズが「ノルウェーの森」を作り、それに憧れた村上何某が「ノルウェーの森」を書いた・・というのは、ちょっと飛躍しすぎですが・・。

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でも、おそらくシェークスピアの時代には森が繁茂し、それが動いたり、失われるというのは信じがたいことだったのでしょう。 もしシェークスピアが、森が失われた21世紀の英国を予見していたとしたら、おそるべきことです。

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そして現代、英国以外の多くの地域で森が動き、失われています。アマゾン、ボルネオ、カナダ、シベリア・・・。太陽光発電だのという前に、なぜ大規模森林伐採を規制しないのか?愚かなことです。

現代の魔女たちはこう予言します。「アマゾンの森が消滅しない限り、人類は安泰だ」

でもそれを現代の為政者達は笑い飛ばしているのです。マクベスのように。


【 南満州鉄道とコールダーホール炉 その2 】 [イギリス]

【 南満州鉄道とコールダーホール炉 その2 】

 

鉄道と原子力発電所は似ています。両方とも、黎明期において、英国はその先頭を走っていました。 しかし、最近20年は原子力発電所の新設が途絶え、最新の技術進歩からは取り残されています。 今は原子力大国と言われるフランスの方が、技術力は高いと考えるべきでしょう。 ちょうどTGVを開発したフランスに英国の鉄道が追い越されたようなものです。 そして今度は中国が英国に原子力発電所を建設しようというのです。

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では、英国の原子力発電所の歴史とは・・。

1956年英国は、世界発の商用原発としてカンブリア地方のコールダーホールに原子炉を建設しました。 それは黒鉛で中性子を減速し炭酸ガスで熱を取り出すというユニークな方式でマグノックス炉とかコールダーホール炉と言われました。

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ユニークな・・という表現は不適切かも知れません。当時原発の黎明期にあって、どの方式が正統で、その方式が異端またはユニークかは言えなかったからです。

たまたま英国は炭酸ガス冷却方式を選び、米国は軽水炉を選んだだけとも言えます。

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正確には、ウラン濃縮技術を持たず、一方で核兵器用のプルトニウムを取り出したい英国にとって、コールダーホールのマグノックス炉は非常に好都合だったと言えます。

今なら・・そう北朝鮮やイスラム国が欲しがる技術です。この原発の操業でノウハウを蓄積した結果、英国の原発はみな炭酸ガス冷却炉になりました。

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しかし、この種類の原発はいろいろな不都合があります。 核燃料の利用効率が悪く、不完全燃焼というか未反応の部分が残ったまま頻繁に燃料棒を交換しなければなりません。 出力が小さい割には図体の大きな原子炉が必要です。

そしてなにより、炭酸ガスで取り出す熱の温度が低いのです。 すべての熱機関は、温度差が命です。高温側と低温側の温度差からエネルギーを回収するのですが、高温側は極力高く、低温側は極力低く(といっても限度がありますが)することで熱効率が上がります。つまり熱力学第二法則です。だけど原発は火力発電に比べて、高温側の温度を高くできません。 そしてマグノックス炉はガス温度が特に低く、熱効率が悪かったのです。 日本でも確か東海村にマグノックス炉が1基あったはずですが、かなり評判が悪かったとか。

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やがてウラン濃縮技術が当たり前になり、軽水炉用の低濃縮ウランがふんだんに供給され、核兵器用の原料も「おなかいっぱい」となると誰もマグノックス炉(黒鉛減速ガス炉)を顧みなくなりました。 このタイプの原子炉にこだわっていた英国は致命的なミスを犯したのです。 信頼性が高く安全で高能率で安価な原発は、アメリカ、フランス、そして日本が提供する時代が来ました。

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それらは昭和の昔、私オヒョウが子供だった頃の話です。 やがて私が大人になり製鉄会社への就職を考えた頃、原子力製鉄・・という話題が聞こえてきました。

「はて? 軽水炉で蒸気を取り出したとしても、それで鉄鉱石の溶解や還元はとでも無理だ。化学を知らない人の発想かな?」と思ったところ、提案者が前提に考えたのは高温ガス炉という原子炉でした。 

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低温ゆえに泣いたガス炉ですが、取り出し温度さえ高温にできれば、製鉄にも使えるし、熱効率もあがるし、いろいろな使い道があるではないか!! という発想はまさしくユニークです。でも、私は「果たしてガス冷却炉の高温化などできるのかしらん?」と思いました。 但し、冷却ガスに炭酸ガスは使わずヘリウムだそうですが。絵空事ですが、小型の原子炉で暖めた空気を用いたラムジェットエンジンで飛ぶ原子力飛行機まで考えられました。 今から40年以上前の話です。

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そして40年後の今はどうか?高温ガス炉はまだ実現していません。原子力製鉄も実現していません。 原子力製鉄という言葉を知らない若い製鉄技師も多くいます。原子力ジェット機も勿論まだ飛んでいません。

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しかし、改良型ガス炉という名前で高温ガス炉を研究している国はあります。あの中国です。国民に原子力アレルギーが無く放射能アレルギーも無い(正確にはあったとしても弾圧する)中国では原子力研究が、猛烈な速度で進行しています。日本で反対運動にあい「もんじゅ」が凍結されている高速増殖炉も、中国では急ピッチで研究が進んでいます。

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そしてその中国が、英国に原発を建設するというのです。 1基目と2基目は原発先進国であるフランスの技術を模倣した原子炉が設置される見込みです。 それだけで、英国にとっては相当の屈辱ですが・・・。 技術を利用され、かってに英国に輸出されるフランスこそいい面の皮です。 ちょうど新幹線の技術を盗まれ、かってに外国に輸出された日本と似ています。 フランス人は文句を言わないのか?

 

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しかし問題はそれからです。

その後、3基目からかは、中国独自の原子炉である華龍1号が導入されるとのこと。 華龍1号は加圧水型の軽水炉・・・で、新幹線と同じく、西側の国の技術を模倣もしくは盗用したものと思われますが、まだ完成しておらず、何ともいえません。中国は、その1号機の実験場として自国ではなく英国を選び、そこで実験するようです。英国の人はその事実を知っているのかな? バッキンガム宮殿で‘89年もののワインで習主席をもてなしていたエリザベス女王は自国が中国の核の実験場にされる事を理解しているのかな?

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しかし、中国はもっと先を見ているはずです。ここから先はオヒョウの無責任な空想ですが、本当は自国で開発している高温ガス炉を英国で実験したいはずです。かつて60年前にガス冷却炉で一世を風靡したその英国で、今度は高温ガス炉で歴史を作りたい・・と中国は考えているはずです。 でもね、私が知る限りでは高温ガス炉はとても難しく、かつ危険な原子炉です。実現するにしても、物理、化学、機械、冶金、電気計測等、あらゆる工学を総動員する必要があります。簡単にできるかな?

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かつては先進的な技術を持っていたのに、今はそれが空洞化している英国、その隙に入り込んで、インフラを支配し、新技術開発に利用しようとする中国。 両者の思惑は合致しましたが、その結果もたらされる憂慮すべき懸念については誰も触れません。 

20世紀の南満州鉄道は、結果的にアジアに悲劇の時代をもたらすきっかけでしたが、メイドインチャイナの原子炉が将来英国に悲劇をもたらさないか、私は心配です。

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ところで、日本の原発の前で座り込んで、「サイカドウハンタイ」と叫んでいる人達は英国や中国の原発には反対しないのかな?


【 南満州鉄道とコールダーホール炉 その1 】 [イギリス]

【 南満州鉄道とコールダーホール炉 その1 】

 

いささか旧聞ですが、中国の習近平国家主席が英国を訪問し、英国の多くのインフラ整備プロジェクトを受注すると同時に出資する契約を結びました。

新聞情報ではその中には複数の原子力発電所と高速鉄道が含まれます。

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原子力発電所については、対象となる発電所も中国の出資比率も明らかにされていますが、高速鉄道の方はまだ具体的な内容が開示されていません。想像ですが、インドネシアの高速鉄道と同じように、資金も中国と民間企業が負担し、英国政府には金銭的保証を求めない・・という方法かも知れません。実は英国の鉄道は日本と同じように国鉄の民営化を進めましたが、上下分離方式(線路の所有者と、列車を運行する事業者が異なる方式)を採用しており、しかもこれからどの様に改革していくか、まだ見えていません。

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中国が高速鉄道を英国に輸出するなら、線路や車輌も列車の運行も全部中国企業にまかせろ・・ということになるかも知れません。今の時代ですから鉄道だけでなく、ホテルや観光事業も含めて中国資本になるかも知れません。でもこれは大問題です。

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国家にとって非常に重要な基幹インフラを外国資本に委ねることの恐ろしさを、おそらくは、中国は知り、そしてインドネシアと英国は知りません。

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中国東北部には、かつて南満州鉄道があり、その経営権は日本が握っていました。そして満州の開拓は、その南満州鉄道を軸にして進められたのです。満州を認めなかった中華民国ですが、手も足も出ませんでした。中心となる鉄道事業とその周辺の産業は全て日本が押さえていたからです。 政治と経済は別さ・・・と言っても、満州国の経営は南満州鉄道の経営と結びついていたのです。

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20世紀だけではありません。現代も軍事力以外にもその地域を支配する方法はあります。交通インフラや水利・水源を押えることは、その有力な手段です。

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旧満州でそれを知った中国人は、外国(特にアジアの中進国や途上国)で交通インフラを支配することを夢見ているのかも知れません。 だからインドネシア政府には資金負担させないから(代わりに経営権を中国によこせ)という条件で高速鉄道を受注したのだと思います。 気がつけば、インドネシアは中国の属国になっているかも・・。 中国の赤い舌と呼ばれる南シナ海の支配は、やがてジャワ島へも及ぶかも知れません。

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何人かの中国人は、やがて中国の国土が赤道をまたぎ南半球に及ぶ時代を待っています。 まるで20世紀前半の日本のような膨張主義です。ジョコ大統領率いるインドネシア政府がそれを知っているかは不明ですが。

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しかし東南アジアやアフリカならともかく、英国の鉄道に投資する・・というのは不可解です。中国は何を考えているのでしょうか? いやそれ以上に英国は何を考えているのでしょうか?

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ご承知の通り、英国は鉄道発祥の地であり、多くの鉄道ファンがいて、国民は高いプライドを持っています。しかし、実態は老朽化した設備、モラールダウンした鉄道員、衰えた技術開発力等・・憂慮すべき点が満載で、国民もそのことを知っています。

事故もしばしば起きますし、列車はなかなか時刻表どおりには運行されません。

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もう随分昔ですが、ドーバー海峡にユーロトンネルができ、パリとロンドンを結ぶ国際特急ユーロスターが登場した時、当時の英国側のターミナル駅での記念式典にエリザベス女王が出席しました。しかし、笑顔は無かったそうです。 なぜならこの高速特急は、全てフランス側の高速特急TGVを元に作られており、ある意味英国側には屈辱的だったからです。 英国側の意趣返しは、ロンドンのターミナル駅をフランス人が最も嫌うウォータールー駅(ベルギーの発音ではワーテルロー)としたことぐらいです。(昔の話です)。

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そして今、英国の都市間高速特急(インターシティ)も老朽化したディーゼルカーの後には日本の日立の車輌とシステムが入ります。 チューブと呼ばれるロンドンの地下鉄車輌も、フランスのアルストーム製がほとんどです。 すでに英国は鉄道をあきらめたのか? そして自国の鉄道網を中国に売り渡すのか? そして中国はグレートブリテン島に21世紀の南満州鉄道を建設するのか?

http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20151030-00046108-gendaibiz-int&p=1

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この問題を矮小化して考えることも可能です。 中国にはこれまで南車と北車という2つの鉄道車両メーカーがありましたが、合併して世界最大の鉄道車両メーカーができました。 それらの工場はもっぱら、中国国内で使用される高速鉄道車両や更新される一般鉄道用の車輌を作ってきたのですが、そろそろ高速鉄道の建設も終了時期に入ってきました。

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これから激減するであろう、車輌の注文に対して工場を維持して、雇用を守るためには、何が何でも輸出せねばなりません。 だから、中国は法外な安値でインドネシアや英国に鉄道を輸出しようとし、中国政府も資金面で後押しするのだ・・と勘ぐることもできます。

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実際、中国の景気が減速するなか、設備過剰、生産能力過剰に陥り、捨て値で輸出し、世界の市場価格を混乱させているのは、鉄道だけではありません。鉄鋼がそうです。そして多分、自動車もこれからそうなるでしょう。

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鉄道車両については、中国には独自技術が殆どありません。 350km/hrを出せる・・と得意になっていますが、直線の線路なら日本の新幹線も普通に出せます。むしろ大出力のモーターや高性能のインバーター制御技術が中国にあるのかな?と首を傾げたくなります。中国の技術に独自の売り物が無い以上、中国の商売は勢い価格競争と短納期競争になります。

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でも、中国の鉄道車両工場には卓越した生産技術があり、これについては日本の工場の上を行きます。 新しい工場では、高速鉄道の車輌を量産できるシステムがあり、高い生産性を誇ります。 いまだ手作りの感じがある、日本の工場とは違います。

つまり、中国が安価と短納期をうたい文句にするのにはそれなりに理由があるのですが・・・中国の工場のメリットが発揮されるのは、大量生産時のみです。日本のように、少ない新幹線車輌の注文を何社かで分け合うような場合には意味を持ちません。

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数をさばくために、外国にも中国製車輌を売り込まねば・・という必死さは、日本国内で新幹線車輌を細々と作ってきた日本の車輌メーカーには理解できないことかも知れません。でも希望通りにうまくいくか?

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日立は、英国のインターシティの車輌納入のために、英国内に工場を建設し新たな雇用を生み出しました。日本車輌は米国内で近郊型電車を売るために、米国に工場を持っています。いずれも、完成車輌の輸出のわずらわしさを除くためと、現地での雇用を確保するためです。

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しかし、中国の場合、国内の工場の稼働率確保に目的があるなら、現地に工場を建てても意味がありません。あくまで完成車の輸出にこだわるかも知れませんが、それでは英国がノーと云うでしょう。 あるいは中国が設計して英国の会社がライセンス生産するのか? でも中国の高速鉄道はほとんど日本とドイツの技術の模倣でできています。 知的財産権の問題が予想されます。

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多分、メイドインチャイナの高速鉄道の建設は、インドネシアはともかく、英国ではうまくいかないでしょう。 しかし、問題は高速鉄道ではなく、原子力発電所の方です。

果たして大丈夫か? それについては次号で


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